西暦2030年 アマゾン奥地 古代遺跡内部

最近運び込まれた照明の照らす洞窟の中で、数人の男女が遺跡内の調査をしている。
数人が遺跡の中心で機材を操作している人物と短い会話を交わしては再び調査に戻っていく。
すると、一人の青年が、何か、とても興奮しながら中央の人物に駆け寄ってくる。

「教授!『マザー』が見つかりました!!」
「何?本当かね!?」

教授、と呼ばれた人物が驚いた顔をして、機材から手を離す。

「よし、案内してくれたまえ」
「はい、こっちです!」

青年は未だ興奮した面持ちで、洞窟の奥に駆けて行く。
それに続く『教授』
暫くの間狭い道を歩くと、突然大きな空間に出た。
床や壁には沢山のメダルが散乱している。
最も、その大半はすでに化石化して「死んでいる」のだが・・・。

「おぉ・・・・・・」

辺りを見回していた『教授』が、感嘆の息を漏らす。
その視線の先には、巨大な物体があった。
巨大な頭部と、それに似合わぬ小さな四肢。
それは、彼等が『マザー』と呼ぶものだった。

「保存状態は良さそうだな。
もしかしたら、数少ない『生きているマザー』かもしれん・・・」
「教授!早くメダルを・・・」
「うむ」

青年の言葉に頷き、ゆっくりと『マザー』の背後に回りこむ。
そして、背中にあるカバーに手を伸ばす。
がしゃ・・・
そんな音がして、ゆっくりとカバーが開く。
しかし、その時だった。
彼が、異変に気付いたのは・・・・・・。

「な・・・に・・・!?」

『教授』が驚愕する。
カバーの中にあるメダルスロット。
その中に、メダルは・・・なかった。

「ど・・・どういうことだ?やはりここの『マザー』も『死んでいた』のか!?」

狼狽し、うろたえる。
そこに、先ほどの青年の、自分を呼ぶ声が聞こえる。

「何だね!?」
「大変なんです!ここ、見てください!!」

その声の感じから、本当に大変な事だと気付き、青年の下に駆け寄る。
青年が指差すその先には、人目で人間の物だと足跡があった。
それも、ごく最近出来たと思われるものが。

「これは・・・?まさか、誰かが我々より先にこの遺跡を発見し・・・『マザー』を奪っていったというのか!?」

『教授』は再び驚愕し、そして狼狽する。

『マザー』、何者かによって奪われる。
それは新聞やニュースで報道される事は無かったものの、学者の間ではかなりの騒ぎになった。
しかし、その時は、誰もこの事件が『あのような事件』に発展するとは思っていなかった。

 

・・・そして、それから1年。
6月に入り、少し蒸し暑くなってきた季節。
そんな時に小さい町で起こった、少しだけ大きな事件。その、物語。

 

 

edarot
    
ero

pisode1「友達はトンボ」

 

 

西暦2031年 御祭町 御祭東中学校

放課後。
少年少女達が図書室で調べ物をしたりさっさと帰ったり部活したり告白したり決闘したりする時間。
そして、校庭や屋上では、ロボトルが行われている。
ロボトルとはロボットバトルの略で、メダロットと呼ばれるロボットを戦わせる遊びの事。
しかしメダロットには意思があり、メダロッター・・・即ち持ち主・・・の命令に逆らったり、
逆に即時に命令を理解し、ベストの動きを見せるメダロットもいる。
敗者は勝者に頭部、右腕、左腕、脚部のいずれかのパーツを進呈しなければならない。
勝つか負けるか解らないというこの遊びに、老若男女問わずに熱中している。
ただ、どこにも数人はメダロットを持っていない者もいる。
そして、2階の2年生の教室の窓から楽しそうにロボトルをしている人々を眺めている少年がいた。
ムスカリキキョウ。
彼はそんなメダロットをもっていない数少ない人間の1人である。

「ふぅ・・・・・」

溜息。
窓の外から教室へと視線を移す。
と、目の前に1人の男。
サンシレンゲ。
彼の親友であり悪友。

「・・・・・・キキョウ、お前まだメダロット買ってないのか」
「・・・・・・・・・金がないんだよ」

レンゲの顔を見ずにすねたような顔で。

「・・・ほぉそうか。じゃあオレがこの間貸した15000円はどこへやった?」

途端に油の切れたブリキの玩具のようになり、ゆっくり、ゆっくり〜〜〜〜〜とレンゲの方を向く。
その表情は少し青ざめていた。

「あ・・・あれはCDプレーヤーを買おうと思って・・・・・・」

レンゲが指をポキポキと鳴らす。
顔には影が掛かっている。
・・・・・・恐い。
危険を感じたキキョウはとっさに机の上に用意してあった鞄を引っつかみ、教室から逃げ出す。
その姿を見送りながら、レンゲは溜息を吐いた。

 

 

キキョウは、まぁまぁ清潔で、少し静かな大きな店の中にいた。
ここは、メダロット専門店『メダショップ・サークル』である。
ちなみにこの店、どこかの研究所の近くの商店街や、どこぞの温泉街など、
様々なところに支店がある。
全国に支店のある大型メダロット量販店『おにいさんのみせ』の影に隠れ、そんなに知名度は高くないが、
それでも品揃えはよく、人気はまぁまぁある。
なお、結構な大きさのこの店も支店にすぎない。
本店がどこにあるのか、それはキキョウも知らない。オレも知らない。
それはともかく、店内の一角で、キキョウはある箱を手にとって見ていた。
トンボ型メダロット「FRA−01トートンボー」
肩の大きな羽根が特徴の、緑色のメダロット。
もっとも、今彼が持っているのは組み立てが必要な少し大きなバラ売りの箱だが、
パッケージに描かれたイラストでその姿を確認できる。
余談だが、メダロットのパーツの販売方法は、紙の箱に入ったセット、バラ売りの他に、
透明なパックに入ったセット、バラ売りがある。
こちらは組み立て済みで、手間が要らないため、メダロット初心者にちょうどいい販売方法だが、
組み立てられている分少々高く、親の援助が受けられない学生や、
一から組み立てる事に意味があるとするモデラー、改造好きなメダロット上級者には不評である。

「また君かい?あきないねぇ?」

レジに立っている店員・・・正確には店長、フジバカマザクロ・・・が、キキョウに笑いかける。
彼は気さくな中年の男で、髪の毛はボサボサ、無精髭はだらしなく伸びている。
普通の店ならこんな格好してたら絶対雇わないだろうが、
この店は社長が随分変人らしく、こういう店員は大歓迎らしい。
話を戻すが、キキョウは彼がロボトルをしているのを何度か見たことがある。
そのとき使っていたのは旧式の犬型メダロット「シアンドック」で、これがかなり強い。
キキョウの最も尊敬する人物の一人である。
声をかけられたキキョウは苦笑しながら軽く会釈を返す。
しばらくして箱を元の場所に戻し、財布の中身を確認する。
散々悩んだ挙句、ついに決心をする。

「よし、決めた!」

ザクロの目の輝きが変わる。
給料が掛かっているので彼も必死である。・・・・・・げふんげふん。
約1メートルの巨大な箱。その中にはメダロットの素体となるティンペットが入っている。
その上に頭部、右腕、左腕、脚部の4つのパーツの箱を積み重ねる。
そして、今度はもう一つの小さな箱を手に取る。
それは一見時計に見えるが、内部にはメダルを収納できるスペースがあり、
これがあれば一定の範囲内ならどこにいても自機を呼び出す事ができるメダロッチという機械である。
最後に、一番小さな箱を手に取る。
そこにはトンボの幼虫であるヤゴの絵柄が描かれた六角形の物体が入っていた。
FRA型と相性がいい、トンボメダル。
それを暫く見つめて、誰にともなく呟く。

「・・・・・・宜しく頼むぜ」

その二つを最後に5つの箱の上に置く。
そしてそれを持ち上げ、落とさないように慎重にレジに持っていく。

「フジバカマさん、お願いします!」

ザクロはレジに置かれたそれのバーコードを機械で読み取る。別に頭が涼しい人のことではない。
キキョウの頭はすでに帰って作るはじめてのメダロットでいっぱいだ。
と、バーコードの読み取りが終わった。

「え〜、9620円に消費税込みでしめて10101円・・・っと。ほいよ」

財布を開け、1万円札一枚に100円玉と1円玉を渡す。
それを受け取り、レジの機械にそれを収める。

「まいどっ!」

袋に詰めた箱とレシートをキキョウに手渡す。
それを受け取ったキキョウは急いで駆け出そうとするが、ザクロに襟元を掴まれ、危うく呼吸困難に陥りそうになる。

「あ〜、ちょいまち。ユーザー登録まだだろーが」

そこまで言って、やっとこさ手を離す。キキョウが白目向いているので、ひっぱたいて意識をハッキリさせた。

「フ・・・フジバカマさん!!危うく死んだ婆ちゃんと再開するところでしたよ!?」

息荒くザクロに向かって怒鳴る。

「あ〜、悪ィ悪ィ。でもな、メダロット買っても登録せなロボトルも転送も出来ねーだろ?」

カラカラ笑いながら。全然悪いと思っていなそうだ。
それはともかく、キキョウはやっとこさ納得したようだ。
ザクロが差し出した書類にペンを走らせる。
必要事項を書き終え、最後にこんな事もあろうかと持ち歩いていた印鑑を押す。

「さ・・・ってと。ほんじゃ、これでおめーも今からメダロッターだな。おめでとー・・・っと」

ポケットから煙草とライターを取り出し、煙草に火をつけた。

「ありがとうございますフジバカマさん!!オレ、立派なメダロッターになります!!」

頭を下げ、冷房の効いた店内から走って灼熱の炎天下に飛び出す。
ちょうどそのとき1人の少女とすれ違った。
その少女は振り返りキキョウを見つめていた。

 

 

 

自室であることに熱心に取り組んでいるキキョウ。
手にはニッパーとランナーに繋がれたパーツを持っている。
そう、今彼が行っているのはメダロットの組み立てである。
ちなみに全パーツ完全着色済み。う〜ん、なんて素晴らしい。・・・・・・ごほごほっ。
頭部と両腕の組み立てと取り付けはすでに済んでおり、あとは脚部パーツのみ。
それも後少しで終了する。

「・・・・・・・・・できた!」

足の部分をティンペットに取り付けて、キキョウは叫んだ。
下のほうで誰かがうるさいと怒鳴った。
左腕にメダロッチを取り付ける。緑と白のツートンカラーだ。
後の作業はただ一つ。背部のスロットにメダルをはめ込む事。
透明の箱を破り、中から金色に光るメダルを取り出す。
このメダルがどんな性格か、一瞬思いを巡らせる。
カバーを開け、スロットにメダルをはめ込んだ。上下左右ぴったり収まる。
ストッパーを下げ、カバーを閉めた。
キュイィイン・・・という起動音が鳴る。
真っ暗だったカメラに、紅い瞳が灯る。
少しして起き上がり、辺りを見回す。
しばしして、目をぱちくりさせるFRA。

「・・・・・・・・・ここはどこだ?あんた誰だ?っつーかオレも誰だ?」

手で頭を掻く。キキョウが目を輝かせた。

「なんつーかだな、オレはおまえの主人・・・・・・はなんかやだな。・・・・・・相棒・・・・・・かな?」

答えに困る。とりあえず納得した様子のFRA。

「相棒か・・・・・・。ところであんたの名前は?俺の名前は?」
「名前?俺の名前はムスカリキキョウ。で・・・、おまえの名前は・・・・・・」

また答えに困る。っつーか詰まる。名前考えてなかったから。
皆はメダロットを買う前に名前は考えておこうね。
たっぷり間があって約一分後。

「トートンボーの最後の字を取って・・・・・・・・・ボルトなんてどうかな・・・・・・・・・?」

なんだか自信がなさそうだ。ってゆーかオレ自体自信がないし。

「ボルトねぇ。・・・・・・・・・ま、いーか。んじゃ、これからよろしくな、キキョウ!!」

キキョウに腹パンチ。ちょっと強くやったのでキキョウが噎せた。
ちょうどそのときゴーンという鐘の音が鳴った。・・・教会あんのか?
時計を見ると、深夜12時を過ぎたところだった。

「あれ?もうこんな時間か・・・・・・。んじゃ、今日はこれで寝るかな。・・・・・・・・・お休みぃ」

そんなことを言ってさっさと布団にもぐりこみ、電気を消す。

「寝る?・・・寝るってどうするんだ?」

ちょうどそのとき、彼の目・・・正確にはメダルに・・・文字が浮かんだ。

『機能休止。お休みなさい』
「あ、なるほど。寝るってこういう・・・」

この瞬間に彼の意識は遮られた。

 

この日、新たにメダロットとメダロッターが誕生した。
彼等はいったいどのような物語を作り出すのだろう?
それは、運命の歯車にしかわからない。


「行くぜ初ロボトル!」
闘志を燃やす、キキョウ。

「3対6・・・1人2体の割合だ」
周りで絶句されながらも、冷静に分析する彼。

「・・・正義の味方だよ!!」
男の言葉に答える男。

今、新たな戦いが始まる!!

 

メダロットZERO第2話
「強い?弱い?ファーストロボトル」

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