ある部屋の一室。
一人の少女が目を覚ました。
寝ぼけ眼でカレンダーを見る。
今日の日付に、ある印がしてあった。

「今日から・・・、お仕事か」

そして、小さく伸びをした。

 

 

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ero

pisode9「新米レフェリー奮闘記」

 

 

「ふぅーむ、そんな事があったか」

呟く男、フジバカマザクロ。その目の前にはキキョウ。
ここはメダショップ・サークルの店内だ。
キキョウは先日の、海での戦いを彼に話したところだった。

「で、新しくトートンボーのパーツ買いに来た、と?」
「ええ、そうなんすよ」

答えるキキョウ。
じゃんけんで負けた彼のパーツがハナキに取られたので新しいのを買いに来たのだ。

「だがよ、何も新しいの買わなくても、ロボトルで手に入れたパーツがあるだろ?」
「はぁ、それが・・・」

ため息を吐く。

「ソード系のパーツが無いんですよ。ハンマー系ならあるんですけどね」
「なるほどなぁ。しかし、すまんな。お前が買ったので在庫最後だったんだ」
「え、マジですか!?」

驚愕する。そして、落胆。

「しょうがない、他の店へ・・・」
「わぁーー!待て待て!!」

慌ててキキョウを引き止めるザクロ。
売り上げは直接給料に響くのだ。

「そうだ、オレが持ってるパーツ貸してやるよ。で、それ使ってる間にパーツ取り寄せたらどうだ?」
「え、良いんですか!?」

キキョウが目を輝かせる。ほっとするザクロ。

「そうだなぁ・・・、これなんてどうだ?」

といってメダロッチを操作し、画面をキキョウに見せる。

「SIN型の右腕パーツ「コテツザンゲキ」だ。トートンボーと同じ手持ちタイプのソードだから扱いも似てるだろ」
「SIN・・・ですか、そうですね、それ借ります」
「よし、んじゃメダロッチこっちに向けな」
「あ、はい」

ザクロの言葉に従い、腕をかざす。

「メダロット、パーツ転送!っと」

ボタンを押す。
ディスプレイにコテツザンゲキが表示され、次に二つのメダロッチが表示される。
そして右腕を模したアイコンがザクロのメダロッチからキキョウのメダロッチへ・・・って、ベタな表現だなおい。
とりあえず転送が完了し、ピー、という音が鳴る。

「これでよし。取られるなよ?大切に使えよ?」
「はい!ありがとうございます!」

ザクロに向かい、深く頭を下げる。

「よし、んじゃ取り寄せ、FRA型の右腕パーツ1つ・・・と」

パソコンに向かい、専用のサーバーからメダロット社にパーツ注文書を打ち込む。
キキョウはメダロッチでコテツザンゲキのパーツ性能を確認している。
そういえば・・・。

「フジバカマさんって奥さんとかいるんですか?」

何気なく聞いてみる。
ザクロの手が一瞬止まる。その表情が変わる。
悲しみと、罪悪感を秘めた表情へと。

「・・・・・・居たよ、妻と・・・息子がな。でも・・・もう、会えないさ」
「・・・え?」

意外な返事に、戸惑うキキョウ。

「居た・・・って?」
「妻は12年くらい前に事故で死んだ。息子はまだ生きてると思うけど・・・会ってない」
「あ・・・、す・・・すいません!嫌なこと聞いて・・・」
「気にすんなよ」

焦ってあやまるキキョウに対し、ザクロはぶっきらぼうに答える。

「あの・・・、会ってない、て?」

恐る恐る聞いてみる。悪いとは思ってもやはり気になってしまうものだ。

「コハクが・・・妻が死んだ後、オレはアイツを育ててく自信が無くて、施設に放り込んじまった。
そんなオレが・・・今更、子供にどんな顔をして会えば良い!?会えるはずが無いだろう!
あいつはきっとオレを憎んでる。まだガキだったあいつを独りにしちまったんだ。当然だろう!?
今更オレなんかが会ったって・・・あいつに嫌な思いをさせるだけだ。それに、きっと顔も覚えてないさ・・・」

静かだった。キキョウは黙ってしまった。
ザクロがはっとし、愛想笑いを浮かべる。

「ああ、すまねぇな。忘れてくれ・・・」
「でも・・・」

キキョウが、呟く。

「でも、顔も覚えて無くても、名前も知らなくても・・・きっと、息子さんはフジバカマさんに会いたいと思ってるはずです。
オレの父さん、凄く仕事が忙しくて、何年か一度にしか家に帰ってこないけど・・・、オレ、父さんのこと凄く好きです。
凄く会いたいと思ってます。だって、オレの父さんだから。
息子さんも、フジバカマさんに会いたいと思ってると思います!」

そういって、駆け出していく。
キキョウが店からいなくなり、静かになった店内で、独り呟く。

「お前は、どう思ってるんだ?アズマ・・・・・・」

一言一言を噛み締め、天を仰いだ。

「・・・・・・あ?」

視界に入ってきた物。自動ドアの向こう。
キキョウが向かった方向に走る、全身タイツに金魚蜂・・・。



「居たロボ・・・。あいつロボね。あの時の借りを返させてもらうロボ」



ムスカリ宅。
帰ってきたキキョウ。
庭先には洗濯物を干しているリンドウとエレナ、そして・・・。

「ただいま〜」
「あらお帰りぃ」
「キキョウちゃん、お帰りなさい」
「あ・・・、お邪魔してます」

何故かそれを手伝っているエリカが居た。

「エリカさん!?何やってんの!?」
「あ、えーと・・・」
「花嫁修ぎょ・・・」
「違います!」

リンドウの言葉を、顔を真っ赤にして否定する。
なんつーか・・・これじゃほとんど漫才だ。

「えと、なんだっけ・・・あ、そうだ。メダロッチ・・・」
「メダロッチがどうかしたの?」
「うん・・・」

そう言って、腕からメダロッチを外し、それを見せる。

「昨日から画面に何も映らなくなっちゃって・・・、転送は出来るんだけど。
 私にはよく分からなくて・・・キキョウ君、直せないかな?」
「んー・・・」

エリカからメダロッチを受け取り、マジマジト見つめる。

「うーん、外からじゃ分からないな・・・。ちょっと分解してみるけど・・・良い?」
「え・・・あ、うん」
「よし、それじゃちょっと待ってて」

そう言って家の中に入って行き、少しして工具箱を持って戻ってきた。
そして、エリカのメダロッチのビスをドライバーで緩め、カバーを外す。
すると、原因は一目で分かった。

「このコードが切れてるね。多分これが原因だと思うよ」
「あ・・・、ほんとだ」

確かに彼の言うとおり、コードが一本切れてしまっていた。
切れている周辺のラバー部分を剥がし、針金部分を繋げ、上から適当な輪ゴムを被せる。
そして、再びカバーを被せ、ビスを締める。

「これで・・・良し。ほら」

言葉の通り、メダロッチの画面にはちゃんと映像が映っていた。

「わぁ、凄い。キキョウ君って器用なんだね」
「あはは・・・、昔からそれだけが取り柄みたいなもんだからね
 あ、でも、これはあくまで応急処置だから。後でちゃんと修理してもらったほうが良いよ」
「うんっ」

微笑む。なんとなく良い雰囲気。
リンドウはそれを眺めながら、自分と、自分の恋人のことを思い出した。
2年位前だったか、付き合いだしたのは。
あの頃は自分達もあんな感じだったなあ、と思い出に浸る。

(あの位の関係のほうが付き合いとしては楽だったんだけどな・・・)
「・・・・・・どうしたんですか?リンドウさん」
「っ!?」

突然話しかけられて驚く。
どうやら知らぬうちにため息を吐いていたらしい。

「あ、いや、なんでもないわ。あはは・・・」
「・・・・・・?」
「・・・・・・あ、そうだ」

必死に話をはぐらかそうと考え、あることを思い浮かべる。

「キキョウ、エリカちゃん、今からロボトルしない?」
「え?」
「今から・・・ですか?」
「そぉ。私と、あなた達二人。二人ともまだ初心者だし、ちょうど良いハンデでしょう?」

リンドウの言葉に、キキョウとエリカが顔を見合わせ、そして共に微笑む。
そして、左腕を口元に持ってきて・・・。

「ボルト、転・送!」
「イズミ、転送っ」

メダロッチに向かって叫ぶ二人。
光球が弾け、右腕をコテツザンゲキに変更したボルトと、家で寛いでいたイズミが転送されてくる。

「おわっ!?オレの右手どうなってんだ!?」
「わっ・・・とと。何、ロボトル?」

呼び出された第一声が・・・。
それはともかく、ボルトを見て、エリカが何かを思いついたらしく、メダロッチを操作する。

「パーツ、転送!」
「へ?」

間抜けな声を出すイズミの左手が瞬時に分解され、そして、変わる。

「え?ちょ、何、何ー!?」

先ほどのボルトのように驚き、慌てる。
彼女の左手はSLR型の左腕パーツ、ファイヤーアームに変化していた。

「あれ?左手・・・」
「うん、やっぱり連射できる射撃パーツのほうが良いかな、って思って・・・」

確かに、そうだ。
KNI方の右腕パーツ・かやくだんは、威力は高いが命中率が低い。
考えてみればあまり命中した例がないのだ。

「ふーん、なんか気に入らないけど・・・まぁいいか。ところで、相手は?」
「うん、リンドウさん」

エリカの言葉に、前を見る。
相手の姿を見、微笑する。

「よぉっし!それじゃ・・・」
「同意と見て宜しいですね!?」

声。
全員が一斉に振り返る。
キキョウの家の屋根の上だ。そこに、レフェリー服に身を包んだ一人の少女が立っていた。
黒髪ショート、そして童顔。小柄ではあるが、大体中学1年生くらいに見える。
レンゲなら即効口説いてそうだ。

「このロボトルは公式ロボトルとして認定されました!それで・・・は・・・」

そこまで言って黙り込んでしまった。
足元をじーと見つめ、そして・・・。

「た・・・高いところ怖いです〜〜!」

その場に居た全員が、一斉にこけた。
どうやら飛び降りようとした物の、屋根から地面までの高さを見て尻込みしてしまったらしい。

「うぇええ〜〜〜〜ん!」
「もう、しょうがないなぁ・・・」

ついには座り込み泣き出してしまった少女を見て額を押さえるリンドウ。

「そこのあなた!今助けに行ってあげるから我慢して待っていなさい!」
「ひぐ・・・うぇ・・・は・・・はい・・・」

助けが来ることに安心し、ようやく泣き止む。
リンドウは一度家の中に入り、2階のベランダから屋根へ上る。

「はい、背中にしっかり捉まって」
「うう、すいません・・・」

リンドウの背中におぶさる少女。
小柄故か、かなり軽い。
そういえば・・・。
小さい頃、キキョウもこうやって屋根に上り、下りられずに泣いていたことがあった。
それを思い出し苦笑する。

「よ・・・っと」

起用にベランダに下りる。
そのまま家の中を通って外に出、少女を降ろす。

「はう・・・。えぇと・・・、申し遅れました。私、メダロット社公認レフェリー、Ms.りいしゅと言います。
 それでは・・・準備はよろしいですか?」
「おう!」
「おっけぇよ♪」

恥ずかしさからか、顔を真っ赤に染めながら自己紹介し、問う。
それに答えるボルトとエレナ。

「それでは、ロボトル・・・ファイトおっ!」

号令。最後の方で声が裏返ったような気がするが気にしない。
それはともかく、全員が一斉に動き出す。
ボルトはコテツザンゲキとブンブンソードを構えて走り、イズミは後方かファイヤーアームを連射し援護する。
しかし・・・。

「当たらないわよイズミちゃん!」

ひょい、ひょいとかわされ、弾丸は地面に減り込む。。
CAT特有の、機動力を活かしたトリッキーな動きで走り回り、向かってくるボルトに向かいジャンプ!
ボルトの背後に回りこみ、本物の猫さながらに空中で体を捻り、そして右腕をボルトに・・・。

「・・・っ!!」

振り返り、コテツザンゲキを振りぬく。
ぶつかり合う両の武器。

「へへっ、奇襲のつもりかよ、ねーちゃん?」
「あらら、止められちゃったわね。でもねぇ・・・」
「・・・っ!」

リンドウの言葉。キキョウが気づく。

「だめだボルト、離れろ!」
「へ?」
「遅いっ!」

閃光が迸り、刀を介してボルトを包む。

しびればびべれぼ!?
「あちゃぁ・・・」

キキョウが額を押さえる。
デンキャットの右腕パーツ、タテガキーのサンダー攻撃だ。
思考回路が一時的にショートし、へろへろーな状態になってしまうボルト。

「あー!離れろぉ!」

イズミがエレナに向かい、弾丸を連射する。

「よっ!」

エレナがボルトの胸部を蹴り、勢いをつけジャンプ!
くるりと回転し着地。
その間に弾丸はエレナを通り抜け、ボルトの足元に・・・。

「おわぁ!?」

流石に驚き、飛んでいた意識が戻る。

「危ねぇじゃねーか!もっとよく狙って撃て!」
「五月蝿いわね!助けてもらったくせに文句言うんじゃないわよ!」
「何ぉう!?」

口喧嘩勃発。まぁ何時もの事・・・っつーか・・・。

「こらこら、ロボトル中だっての」

苦笑しながら、その辺を走り回るエレナ。
蜻蛉とくノ一の口喧嘩は延々と続く。

「あ、あの、ロボトル中なんですけど・・・」
「うっさい!」
「ひゃうっ!」

恐る恐る注意するものの怒鳴られ、涙目になってしまうりいしゅ。
いい加減うんざりしてきたキキョウとエリカ。
その時!

「おわぁ!?」
「きゃっ!?」

突如ボルトとイズミの付近に出現する黒い影。それは・・・。

「うひょひょひょひょ」

蟻型メダロット、アントリアン。そして・・・。

「なんだロボロボ団か」
「何よ白けちゃったじゃない」
「えっ、あれってまだ居たの?」

しれっ。

「しゃあねえ、ねーさんロボトルの続き開始だ!」
「よぉっし行くわよぉ♪」

しかも無視。酷ぇ。

「無視するなロボォ!行くロボアントリアン達!!」

無視されたことに怒ってアントリアンをけしかけるロボロボ団員。
同時に10体近いアントリアンがどこからともなく現れる。

「あ・・・あのぉ・・・」

りいしゅが恐る恐る声をかける。

「ロボトル中の乱入は・・・」
「だまらっしゃい!」
「きゃう!」

びくり、と身を竦める。だめだこりゃ・・・。
そして、アントリアンの爪がボルト達に迫る!

「ったくしゃあねーな、相手して・・・!?」

閃光がボルトの左手を貫く。
剣が手から零れ落ち、地に落ちる。
腕に細い穴が開いている・・・。

「がぁああああああああ!?」

絶叫し、左手を押さえながら跪く。
血・・・否、オイルが溢れ出す。止まらない。

「ボルトォ!」

悲痛な叫び声を上げ、イズミが駆け寄る。

「大丈夫!?立てる!?」
「オレの・・・事は良い・・・早く逃げないと、お前も・・・あいつに・・・」

きっ、と、イズミが「あいつ」を睨む。
TOT型メダロット、通称「リックタートル」
・・・・・・のパーツを右腕に換装したアントリアン(赤)だ。

「ボルト、イズミ、早く逃げろ!スリープレーザーは放熱と充填に時間がかかる。その間に!」
「う・・・うん!さぁ、早く立って!」

キキョウの言葉に従い、ボルトに手を差し伸べるイズミ。
それを取り、ふらつく足で立ち上がる。

「姉さん!」
「分かってるわよ!エレナっ!」
「はぁッ!」

リンドウの指示。エレナがボルトとイズミに迫るアントリアンに飛び乗り、放電する。
回路がショートし、アントリアンが倒れる。
そして別のアントリアンに飛び乗り、再び放電。
次々と倒していくが、しかしながら敵はどこからともなく湧いて出てくる。
エレナ一人でなんとかできる数ではない。
赤いアントリアンにはたどり着けず、そして赤アントリアンの右腕パーツの放熱・充填が完了してしまう。

「やるロボぉ!」
「ギ」

機会音を発し、ボルトに銃口を向ける赤アント。
そして・・・。

「く・・・のぉ!」

撃ち出される閃光。イズミが咄嗟に右腕を向ける。
装甲がスライドし、レールが現れ、そこから爆弾を射出する。
かやくだんにはこういう使い方もある・・・というか、本当はこれが正しい使い方なのだが。
放たれた爆弾にはタイマーがセットされており、瞬時に爆発。爆煙が広がり、それがビームを掻き消す。
感嘆の息を漏らすキキョウ。舌打ちするロボ団。
一方、りいしゅは・・・。

「は・・・初めてのお仕事なのにぃ〜〜」

泣いてた。駄目だこりゃ。


それから十数分。
地面は所々穴があいており、さらに夥しい数のアントリアンの機体が転がっている。
穴は赤アントがあけた物。アントリアンはエレナが機能停止させたものだ。
しかしエレナももうボロボロだった。
機体は所々引っかき傷がつき、ENも尽きかけている。
ソーラーバッテリーとオートマチックジェネレーターだけで補えるものではない。
ボルトはまだ無事だったが、それを庇ったイズミの左腕は機能停止、右腕の爆弾も尽きかけている。
一方、、問題の赤アントリアンは無傷。
黒いアントリアンは倒しても倒しても湧いてくる。
絶体絶命、と言ったところか。

「・・・・・・っ!」

リンドウが、きっ、とりいしゅを見、怒鳴る。

「あなた、レフェリーでしょう!?」

ヒステリックな叫び声。少し涙声が混じっている。
エレナが、パートナーが心配なのだ。
びくり、と脅えたような目をする。それに構わず、続ける。

「だったらなんとかしなさいよ!!」

わかってる。
わかってる。
けど、怖い。
口を出して、後で何をされるか分からない。怖い。
頭を抱える。
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖―――。

「あぁぁぁああああああ!!」

耳に入る、悲痛な叫び。イズミの絶叫。
顔を上げると、彼女がレーザーに右足を焼かれていた。
苦痛に顔を歪め、倒れる。

「おい!オレに構うな!逃げろよ!オレが盾になる、だから・・・!」
「ばか・・・それじゃ意味無いのよ・・・」
「でも、お前のほうがボロボロじゃねーか!」

右手を差し伸べる。イズミを引っ張り上げ、無理やり彼女を抱き上げる。イズミが驚く。人間ならば頬は紅くなっていただろう。
しかしやはり片手では不安定で、うまく支えることができない。
そうこうしている内に時間が経過する。スリープレーザーのチャージが進んでいく。

「・・・・・・・・・!!」

思わず、エリカは飛び出していた。
手を大きく左右に伸ばし、イズミとボルトを庇うように立つ。

「退くロボねーちゃん!」
「い・・・嫌・・・です!絶対・・・嫌!!」

震える手。震える体。震える声。
でも、一歩も引かない。
キキョウが同じ様に走る。
今度はエリカを庇って立つ。
苛立ちを感じ、アントリアンに指示を出す。
ゆっくりと右腕を向け、そして・・・。
パァンッ
銃声。
レーザーの物ではない。ライフル。
赤アントリアンの右腕に突き刺さる。
レーザーが明後日の方向を焼いた。

「ロボロボ団・・・。追ってきたらここかよ」
「貴様等は我々にとっても敵だ。叩き潰す!」

フジバカマザクロ。そして、初期型DOG、シアンドッグ。

「フジバカマさん!」
「よう」

キキョウの言葉に答えながらも、その目はロボロボ団を見ている。

「く・・・、ふん!旧式のメダロットで何ができるロボ!やるロボアントリアン達!」

ロボ団の号令と共に、黒アントリアンが一斉にシアンドッグに向かう。

「ひぃふぅみぃ・・・ざっと20体か。ブルー、アレ行くぞ!」
「応ッ!」

ザクロの号令。シアンドッグ・・・ブルーの答えと共に、胸部装甲が開き、銃口が出でる。
両手に一つずつ、胸部に8つ。
合計10の銃口。
その全てを迫り来るアントリアンに向ける。

ハリケェェェエエエエエン!!バァァァアアアアアアアアッストォ!!

二人の叫びが同調し、それと同時に全ての銃口から弾丸が撃ち出される。
連射。その全てが正確にアントリアンの頭部を射抜き、次々と地に伏させる。
そう、まるで『嵐』の如く。
やがて嵐が止んだ時、残っているのは赤いアントリアンだけとなった。

「さぁ、貴様が最後だ」

ゆっくりと、ブルーが赤アントに銃口を向ける。
はっ、とし、イズミをエリカに託したボルトが歩み出る。

「・・・・・・?」
「こいつは・・・、オレが倒す!」
「・・・フ・・・・・・」

ボルトの言葉に微笑み、銃を下ろす。
そのままザクロの所まで戻っていく。
ボルトはコテツザンゲキを構え、赤アントリアンを睨みつける。

「イズミに無理させちまったのはオレだけど・・・、お前は絶対に許さない!!」

彼の気迫に怯み、僅かに後ずさる。
しかしすぐに右腕のチャージを開始する。
走り出すボルト。

「おぉぉぉおおおおおおおおおおおッ!!」

雄叫びを上げながら駆ける。
レーザーが発射される。
しかし、ボルトはそれを信じられない程の反応速度で躱す。

「・・・・・・?」

キキョウが何かを感じていた。ポケットに手を突っ込み、そこからあるものを取り出す。

「石が・・・、光ってる・・・?」

それは数週間前、彼が紅野明日香に貰った、あの石だった。
お守り替りにしていたそれが、微かな光を発している。
美しい虹色の光を・・・・・・。
見とれていたキキョウは慌ててボルトに視線を戻す。
ボルトが赤アントリアンに接近し、コテツザンゲキを振りかぶったところだった。
石が、一層強く輝いた。
そして、ボルトの剣に稲妻のような物が・・・。

「・・・・・・!?」

アントリアンがそれを視覚した次の瞬間、コテツザンゲキはその頭部を切り裂いていた。
同時に光が収まる。稲妻も消失していた。


ボルトの様子がおかしかった。
カメラに瞳は映らず、ただ、力なく項垂れていた。

「ボルト・・・?」

恐る恐るキキョウが近づくと、突然背中のカバーが開いた。
そこから蒸気が噴出し、そして、それが止んだ時。

「これは・・・」

トンボメダルが、成長していた。
小さな1齢幼虫の姿から、大きな終齢幼虫の姿へと。
その場にいる全員が、その姿に見入っていた。

(今の内に・・・・・・)
「どこに・・・行くんですか?」

こっそりとその場から去ろうとしていたロボ団の前に、Ms.りいしゅが立ち塞がった。

「・・・ふ、ふん!弱虫のへなちょこレフェリーなんか怖くないロボね!」

たじろぎながらも走り去ろうとするロボ団。
しかし次の瞬間。

「ぎゃっ」

その首筋に吹き矢が直撃した。
しばらくしてぐったりと倒れこむ。多分命に別状は無いはずだ・・・そうだよね?(知らん)

「あら」

ようやく事に気付いたリンドウが振り返る。
ロボ団を見、りいしゅを見、何があったのかを判断する。

「やるじゃないの。・・・・・・さっきは、怒鳴ったりして悪かったわね。ごめんなさい」
「いえ・・・、私の方こそ、すいません。怖かったんです、口を挟んで、後で何されるかわからなくて・・・」

俯く。しかし、すぐにまた顔を上げる。そこには笑顔があった。

「でも、皆さんのロボトルを見て、勇気が湧いてきました。初めて審判するのが皆さんで良かったです!!
 すごく勉強になりました。ありがとうございます」
「うん、がんばりなさい」
「はい!」

リンドウの言葉に嬉しそうに答え、どこかへ去っていく。

「勇気・・・・・・か」

りいしゅの後姿を見ながら、小さくその言葉を呟いた。



その日の夜。
明日帰る事になったリンドウは、荷物をまとめ、さっぱりした部屋で携帯を見つめていた。
暫くして、携帯を操作し、恋人へ電話をかける。
少しの間があり、そして繋がる。

「あ・・・、ユウジ?ごめんね、こんな時間に。うん・・・、明日、そっちへ戻る事にしたから。
 いきなり居なくなったりして、ほんとごめん。・・・ううん、嫌だった訳じゃないよ、嬉しかった。
 ・・・ほんとだってば。
 ・・・・・・・うん、うん。・・・それじゃ、明日会おうね。おやすみ・・・」

携帯の電源を切る。満足そうに微笑みながら、天を仰ぐ。
外では、月が美しく輝いていた・・・・・・。


「あなたは・・・?・・・・・・それに、ここは・・・?」
終り無き逃亡を続ける者。

「見ぃーつぅーけぇーたぁーロボォー!」
彼の旅に終わりは来るのか。

「これ以上、僕を追ってくるつもりなら・・・」
そして彼は走り始める。

『もう一人』の旅が始まる―――

メダロットZERO第10話
「逃亡者」