6人のメダロットが、リングに立っている。
蜻蛉、騎士、くノ一、ガンマン、天使、虎と、その姿は様々だ。
しかし、願っている事は同じ。
『優勝』
その一言を胸に、全員が心を、魂を、闘志を燃やしている。

「それでは始めさせていただきます!」

言葉と共に、レフェリーが右手を振り上げる。
全員の間に緊張が走る。

「ロボトル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ファイッ!!」

み○さん並に焦らしながら、ようやく号令を発する。
戦いの幕は、今開かれた。

 

 

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pisode8「白熱の海のロボトル」

 

 

「おぉおおおおおおおお!!」
「グルァアアアアアア!!」

雄雄しき騎士と、美しき虎が、その刃を交える。
セインは華麗な技を繰り出し、見るものを魅了している。
しかし、虎は荒々しく野性的な動きで、セインの技を受け付けない。

「くぅ、なんという激しい攻撃・・・、とても女子とは思えぬ!!」

そう、虎・・・タイガスキャルプのグレースは、女性型メダロットだ。
そのフォルムは曲線的で美しい。
しかし、セインが今戦っているタイガスキャルプには、優雅さは感じられない。
まるで、本能だけで戦っているように思える。

「セイン、後方へジャンプ!」
「ちぃっ!」

レンゲの指示どおり、後方へ飛び退く。
すると次の瞬間、セインの今居た場所に銃弾がめり込んだ。
敵のリーダー機、ガンマン型・・・メダボーイ・ブラストの銃撃だ。

「こん・・・のぉおおお!!」

イズミが振りかぶる。
そして、野球のピッチャーの如くかやくだんをぶん投げる。
時速90km前後のそれは、ブラストに向かって一直線に突き進む。
かやくだんはブラストに直撃・・・しない。
着弾の直前、ANGの改造型・・・エイシアに蹴り飛ばされた。
明後日の方向に飛んでいった爆弾は、暫くしてから空中で爆発する。

「行くわよぉ!」
「え・・・、ちょ・・・ちょっと待って!!」

とは言ってみても待ってくれるはずが無い。
エイシアは凄まじい速さでイズミに迫る。

「こ・・・このぉ!!」

イズミはがむしゃらにかやくだんを投げるが、それらは全て、苦もなくかわされてしまう。

「もうちょっと良く狙わないと、アタシには当たらないわよ!!」

言いながら、エイシアは既にイズミのすぐ傍に来ていた。

「はぁ!」

雄叫びと共に、鋭い蹴りが繰り出される。
イズミはなんとかそれをかわすが、すぐに第二撃、そして第三撃が来る。

「イズミっ!」

鈍い音が響いた。。
ボルトが二人の間に入り、右の刃の側面でエイシアの打撃を受け止めていた。

「やらせるかよ・・・!」
「トートンボー・・・マンサク博士の造った機体・・・! でも、容赦は・・・しない!!」

叫び、拳を押し込む。
ボルトの方が、僅かに押されている。

「トートンボーじゃねぇ! オレは・・・・・・ボルトだ!!」

気合を込め、刃を無理矢理振りぬく。
                   
エイシアが弾き飛ばされ、その掌に浅い傷が刻まれる。

「くっ!」

空中で体を捻り、リングに着地する。
ボルトが走って接近してくる。

「ちぇっ、力じゃ敵わないか・・・」

イズミの投げるかやくだんを回避しながら呟く。

「な・・・ら、こうだ!」

エイシアがボルトに向かって駆け出す。
同じくエイシアに向かって駆けるボルトと、正面からぶつかりそうになる。
すると、突如エイシアが前かがみになる。

「はぁッ!」

かけ声と共に跳躍。
一瞬でボルトの背後に回る。

「ちぃッ!?」

それに反応し、ボルトが振り向く。
同時に、エイシアが叫ぶ。

「ブラスト!フォーメーション06、行くわよ!」

そして、後方に飛び退く。
ボルトはその行動を疑問に思うが、次の瞬間、キキョウの声が聞こえる。

「ボルト、後ろ!」
「!?」

指示に反応し、咄嗟に右方向に飛び退く。
同時に、ブラストの放った銃弾がボルトをかすめる。

「くっそ・・・なろぉ!!」

怒り、ブラストに向かおうとするボルトの足元に、再び弾丸が飛んでくる。
ボルトは今度はジャンプしてかわそうとする。

「待てボルト、跳ぶな!!」
「何!?」

それと同時に、何かに気付いたキキョウが叫ぶ。
しかし時既に遅く、ボルトはすでにジャンプしてしまっていた。

「中々反応は良いみたいだけど、もうちょっと後先考えて行動することね」

エイシアの言葉。
彼女はいつの間にか、再びボルトの背後に接近していた。

「しまっ・・・!?」
「ハァッ!!」

ボルトの背中に、ハイキックが直撃する。
それと同時に、ブラストの放った三発の銃弾がボルトの右肩に食い込む。
肩部アーマーが外れ、ティンペットが剥き出しになっていたそこの防御力はゼロに等しく、右腕の神経が断裂してしまった。

「がぁあああ!!」

ボルトの絶叫。
動かなくなった右手から、剣が落ちる。

「ボルト!」

セインが叫ぶ。
ボルトの援護に向かおうとするが、グレースに阻まれてしまう。

「くっ・・・、ええい!邪魔をするな!!」

怒声と共に、パラディンソードを振るう。
しかしそれはいとも簡単にかわされ、逆にカウンターを喰らってしまう。

「くぅ・・・!!」

痛みを感じ、2、3歩後ずさる。
再び攻撃。
猛ラッシュを喰らい、徐々にダメージが蓄積されていく。

「セインッ!」
「だ・・・大丈夫・・・です」

レンゲの声に、答える。
しかし大丈夫そうには見えない。痩せ我慢。
でも、レンゲは何も言わない。
7年近い付き合いだ。痩せ我慢をしている事くらい分かってる。
でも、だからこそ、何も言わない。
ただ、相棒を信じるのみ。
セインは痛みの中、ボルトを見やる。
ボルトは左手だけで、ブラストとエイシア相手に戦っていた。
イズミが援護に向かおうとしているが、ブラストの銃弾に阻まれ、近づけないでいる。
今は何とか戦っているものの、このままではいずれ倒れてしまうだろう。
早く助けに向かわねば。
今のボルトに比べれば、一人相手にするのは簡単なはずだ。

「おぉおおおおおおおおおおお!!」

絶叫。気合を入れなおす。
剣を強引に振るい、グレースを引き離す。
盾を捨て、剣を両手で構える。

「我が奥義、見せてくれる・・・!」

呟き、駆ける。
凄まじい速さで、グレースの懐に潜り込む。

「おぉおおお!!」
「グゥ!?」

絶叫。
その気迫に、グレースが一瞬怯む。

真聖・・・・・・

刃を逆手に持ち、真っ直ぐに斬り上げる。。

洸烈斬!!

そして、横一閃に斬り裂く。
苦悶の表情を浮かべ、ゆっくりと崩れ落ちるグレース。
背部のメダルスロットから、メダルが排出される。
抜け殻となった彼女のボディには、鋭利な十字傷が刻まれていた。

「魂の篭らぬ拳で、私を倒すことなどできぬ」

刃を振り抜いたままの体性で硬直していたセインが呟く。
ゆっくりと、元の体勢に戻る。

「・・・・・・とは言え・・・・・・私も流石にダメージを喰らい過ぎた。もう・・・力は残っていない・・・か」

彼の手の中から、剣がすべり落ちる。
からん、という音を立て、セインの足元で震え、やがて止まる。

「すまんな、ボルト。お前の助けは、出来そうに無いよ・・・・・・」

微笑し、ゆっくりと、力無く倒れていく。
レンゲのメダロッチが、機能停止を告げる。メダルが宙を舞い、落ちた。

「グレース選手、セイン選手、機能停止!!」

レフェリーの声。
それを聞いたイズミは愕然とする。

「セイン・・・・・・!」

手が震える。
チームで一番の実力者である、セインが倒れてしまった。
残ってるのは自分と、ボルト。
二人とも素人同然。
しかも、ボルトは二人と同時に戦っている。
自分は援護に向かえないでいる。
勝てるのか・・・・・・?

「・・・っ!」

頭を振る。震える手を握り締める。
勝てるのか、じゃない。負ける事を考えちゃ、何も始まらない。
そう、勝たなきゃいけない!

「エリカ!何か考え無い!?」

叫ぶ。
メダロッチ越しにそれを聞いたエリカは、少々躊躇った後に、呟く。

「あるよ・・・一つだけ」
「教えて!!」
「でも・・・・・・、危険だよ?」

エリカの声。
しかし、イズミはもう、覚悟を決めていた。

「・・・・・・うん、わかった」

微かに震える声で、指示を送る。
途中、徐々に声が涙声になっていった。


「らぁあああ!」

エイシアに向かって剣を振るう。
しかしそれは簡単にかわされ、拳による応酬が帰ってくる。

「く・・・っそぉ!」

後方に飛び退き、回避する。
しかし、次の瞬間、ブラストの放つ弾丸が飛んでくる。

「ちっ!」

咄嗟に刀で受け止める。
衝撃。刀にひびが入る。

「まずいな・・・」

キキョウが呟く。
2対1。しかも相手はかなりの熟練者。こっちは素人。
そして、手負い。
必死に考えを巡らす。
しかし良い案は浮かばない。
浮かんでも、とても実践できそうにない。

万事休す、か・・・?

それでも、微かな希望を胸に、活路を見出す。
知識は役に立たない。それ以前に、当てにならない。
さぁ、どうする・・・?
その時だった。

「はぁああああ!!」

絶叫。イズミだ。
こっちに向かって駆けてくる。

「あいつ・・・何やってんだよ!?」

ボルトが愕然とし、イズミを見る。
ブラストとエイシアも、同じように。
ブラストがイズミに銃口を向ける。
そして、弾丸を撃ち出す。
高速でイズミに向かう。
それを避けようともせず、突き進む。
弾丸が肩を掠める。アーマーが弾け、痛みに顔を歪める。
それでも、止まらない。

「こんのぉおおおおお!!」

エイシアに距離が近づいたところで、右腕を振り上げる。
腕部の装甲が開く。
内部から、大量の爆弾が現れる。

「7から15番までの安全装置解除、タイマー5秒に設定・・・」
「・・・!!」

カウントを行いながら、エイシアの頭部を掴む。
そして・・・。

「2・・・1・・・0!!」

ボンッ
爆発。
イズミとエイシアが、爆炎に包まれる。

「イズミ!!」

ボルトが叫ぶ。
エリカが涙を流した。
煙が収まる。
イズミとエイシアが倒れていた。
エイシアの頭部とイズミの右腕は砕け、他の部位は焼け爛れている。
ボルトが駆け寄る。
イズミは、まだ機能停止していなかった。
抱き上げる。ノイズの混ざった呻き声が聞こえる。

「お前・・・、なんでこんな事したんだよ!?」
「言っとくけど・・・、あんたのためにやったわけじゃないからね。
絶対に勝ちたかったからやっだけよ。一応、あんたリーダーだからね・・・」

何故か、目をそらし、掠れる声で呟く。

「絶…勝ち…いよ…」
「・・・ああ、わかってる」

微笑する。やがて、瞳が光を失い、腕が力なく垂れる。
機能停止の機械音と共に、メダルが射出される。

「エイシア選手、イズミ選手、機能停止!」

レフェリーの声。
ボルトがイズミのボディをそっと地面に下ろし、ゆっくりと立ち上がる。

「これで、お互いに1対1・・・。一気に勝負をつけてやる」
「ああ、望むところだ」

二人が向き合う。
ボルトが刀を構える。ブラストが銃口を向ける。
二人の間に生まれる緊張。
そして、ブラストが弾丸を射出した。
ボルトが走り出す。
弾丸をギリギリでかわす。追撃が来る。体を揺らす。
動かない右腕が揺れて、跳ね上がる。
それが盾代わりになり、弾丸を防ぐ。
微かな衝撃も気にせず、突き進む。
再三の銃撃。
胸部近くに向かってくる。
ブラストまでの距離は近い。
体を捻る。回転。
弾丸が背中を掠める。
微かな痛み。でも、距離は十分。必殺の間合い。
これで・・・・・・。

「終わりだぁ!!」

刃を横一閃に振りぬく。

「ちぃ・・・!」

ブラストが、左腕を・・・ナイフを、振りぬく。
だけど、威力は間違いなくこっちのほうが上。

勝てる・・・!

そして、二つの刃は激突した。
片方の刃が、砕ける。
・・・・・・ボルトの、刃が。

そうか。

ブラストの銃弾を受け止めたとき、微かなひびが入った。
そのときは気にしなかったけど、まさかこんなところで響いてくるとは・・・。

「・・・・・・!」

気が付くと、ブラストが銃口を突きつけていた。

「The Endだ。負けを認めな」
「誰が・・・!」
「・・・残念だ」

パンッ
乾いた音が響いた。
会場が、しんと静まる。
ボルトのカメラが砕け、破片が宙を舞う。
ゆっくりと、倒れる。
がしゃん。
機能停止、レフェリーが勝利宣言を行う。

こうして、彼達の戦いは終わった・・・。



「いやぁ、あそこで剣にひびが入ってなかったら危なかったよ」

ハナキが微笑む。
結局あの後、ハナキが優勝した。
エイシアとグレースのサポートなしで相手を倒しちゃったんだから凄い。

「いえ、多分剣が砕けなくても負けてましたよ」

キキョウが苦笑し、頭を掻く。
ボルトはメダロッチの中に入っている。ティンペット自体が壊れてしまったのだから仕方が無いだろう。

「謙遜しなくても良いよ。君等は十分強い」
「はぁ、ありがとうございます・・・」

ハナキが手を差し出す。

「また、いつかロボトルしような」
「あ・・・、はい!」

手を握る。握手。
そして、別れる。
別々の方向に歩いていく。
改めて、負けた・・・という実感が湧いた。
でも、悔しいとか、そういう気持ちは無くて、むしろ爽やかな気分だった。
少しずつ強くなっているような、そんな気がした・・・・・・。


「今日から・・・、お仕事か」
少女が呟く。期待と、不安を胸に。

「・・・・・・居たよ、妻と・・・息子がな。でも・・・もう、会えないさ」
彼の悲しい瞳。秘められた過去は・・・。

「石が・・・、光ってる・・・?」
力が、目覚め始める。

勇気、決意をその胸に抱き、人々は歩き出す―――


メダロットZERO第9話
「新米レフェリー奮闘記」