放課後

「レンゲ」
「ん?」

レンゲが校門を出たとき、そこにはキキョウとボルトがいた。
今の彼らには、今朝のような負のオーラはない。
決意に満ちた眼差しで、呟く。

「頼みがある」

 

 

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pisode6「特訓」

 

 

「うおおおお!!」

雄叫びを上げながら、ボルトが突進する。
剣を向けたその先には、セインの姿があった。
周囲では、キキョウとレンゲ、エリカがその光景を眺めている。

「甘い!」

ボルトの刃をパラディンシールドで受け流し、そのまま後に回り込む。
そしてボルトが方向転換するよりも前に斬撃を叩き込む。
・・・否。
セインが持っていたのは刃ではなく、木刀だ。
ボルトも軽いダメージしか受けていない。
キキョウ達の頼みとは、稽古をつけて欲しいというものだった。
そして、レンゲはそれを受け入れた。
だから、今こうしている。

 

ボルトは幾度となくセインに挑んでいるが、未だに勝利どころか、傷一つ付けられないでいる。
剣と盾を巧みに扱い、相手の攻撃を受け流し、隙を見せずに戦うセインに対して、
ボルトは攻撃のみを考え突っ込んでいる。
最初の頃と比べ、かなり上達してはいるが、経験不足は明らかだった。

どしゃっ

セインの一撃で、再び地面に叩き付けられる。

「く・・・っそぉ!まだだ!!」

立ち上がる。
しかし今までに蓄積されたダメージと疲労で、立っているのがやっと、という状態だった。

「・・・・・・少し休もう」

ボルトの状態を見たセインは、そう言うと近くのベンチに座り込んだ。

「まだ・・・!」
「休め」

まだ続けられる、と言おうとしたが、セインに遮られる。
事実、自分の体がボロボロという事は自身もわかっていた。

「・・・くそっ」

渋々ベンチに座る。

「はい、ボルト君」

エリカがオイルを渡す。
礼をいい、口・・・と言えるのかどうかは知らないが・・・に含む。
枯渇しかけていたオイルが体中に行き渡り、力が湧いてくる。

「しかし、以外だったな」
「あ?」

ボルトがオイルを飲むのを眺めていたセインが呟く。

「おまえの事だ、必殺技を教えろ、と言うと思っていたがな」

セインが微笑する。
少し経ってから、ゆっくりとボルトが喋り始める。

「そりゃ、最初は必殺技を覚えたいと思ってたさ。
でもよ、あいつは・・・、あいつは、一発限りの大技で倒せるような相手じゃねえんだ」

奴の動き。あの戦いが、頭から離れない。
自分が確実に経験を積み、強くならなければ、あの男には間違いなく勝てない。

「・・・マイティ、といったか。一度手合わせしてみたいものだ・・・」

思えば、ここ数年負けた事が無い。
それは努力の結果だ。これ以上強くなる事はないだろう。
・・・いや、このままではもう強くなれないのかもしれない。
今一度、敗北を知らねば、これ以上は強くならない。
誰が自分を負かすのか。
ボルトか?それとも他の誰かか?
そんなことを考えているうちに、ボルトが立ち上がっていた。

「続き、始めようぜ」
「・・・・・・ああ」

微笑み、立ち上がる。
これ以上強くなる必要はない。
彼は、そう答えを出した。

 

「マツバさん、手伝ってもらわなくても良かったんだけど?」
「え?」

ボルトとセインの特訓を眺めながら、キキョウが言った。
彼女がなぜオレ達と一緒にいるのだろう、と思うことがよくある。
友達が居ない、というわけではないだろう。
以前大勢の女子と一緒に楽しそうにおしゃべりしていた姿を見たことがある。

「う・・・ん。楽しいから・・・かな?」

少し恥ずかしそうに、小声で答える。

「・・・え?」

キキョウの反応に、エリカの頬が真っ赤に染まる。

「あの、楽しいって言うのはそういうことじゃなくて・・・」

慌てて弁明する。その姿に、思わず吹き出しそうになる。

「ム・・・ムスカリ君!もう・・・。
 ・・・・・・あれ?・・・イズミ?」

エリカが驚いたような顔で呟く。
その視線の先の茂みの影に、誰かが隠れている。
・・・・・・イズミだ。
ボルトの方を向きながらなにかブツブツ言っている。

別に・・・が気になる・・・ちょっと・・・やるのも・・・もと思った・・・けよ・・・そうだからね・・・
「イズミ?あなた来ないって言ってなかった?」
「☆¥@#%!!?!?」

エリカが後から声をかけると、驚いて声にならない声を出し振り返る。
やや過剰気味の反応に、逆にエリカのほうが驚いてしまう。

「エ・・・エリカ!?お・・・脅かさないでよ、もう!」
「あ・・・ご、ごめん。でも、なんでここに?」

驚いたのはこっち・・・とは言えないので、とりあえずなんでここに居るのかを聞いてみる。
イズミは思いっきり慌てている。
数十分ほど前に
「なんであたしがあいつの特訓なんて手伝わなきゃいけないのよー。あたしは行かないわよー」
などと言ってしまったため、随分決まりが悪いようだ。

「あ・・・あ、ほら、ちょっと冷やかしてみるのもいいかなーって、それだけよ、お・・・おほほほほ・・・」

ぎこちなく笑う。
エリカはどうやら理由はほぼ自分と同じらしいと判断し、自分の為にもそれ以上は追求しない事にした。

「イズミ、隠れてないで普通に見てても良いんじゃない?」
「え?ちょ?あ・・・あわわわ・・・!?」

その代わりイズミを茂みから引っ張り出す。
かなり慌てている姿が少し可笑しかった。
もっとも、ボルトは彼女に気付いていなかったが。
・・・何故ボルトかは野暮なので言わない。
なお、特訓に打ち込んでいたボルトは暫くの間イズミに気付く事は無かった。
彼女は何故か知らないが怒って帰ってしまい、エリカも連れられていったので、結局4人だけになった。
その後、特訓は夜まで続いた・・・。

 

 

それから数日後の朝。

「眠・・・・・・」

大欠伸しながら制服に着替える。
最近は夜遅くまでボルトの特訓に付き合っているので、異様に眠い。
それでも流石に学校を休むわけには行かないので急いで着替えを済ませ、鞄を背負う。

「行ってきまーす」

また欠伸をしながら気の無い返事をする。
すると、奥から足音が聞こえてきた。
・・・・・・キキョウの母、レンカだ。

「キキョウ、帰りにこれ買ってきてくれない?」

そう言って何かが書かれた紙を渡す。
そこには、昨日切らしてしまった食材の名前が書かれていた。

「えー!?これ、近くても梔子市にしか売ってないじゃん!」
「困ったわねぇ・・・、これが無くちゃいけないのよ・・・」
「やだよー・・・ってゆーかボルトに頼めばいいじゃん?」
「ボルトちゃんはまだこの辺りの事も良く知らないでしょう?あなたに頼むしかないのよ。お願いね、キキョウ」
「・・・・・・はぁ」

かなり面倒だが、しかたないので渋々引き受けることにした。
レンカにお金を渡され、そろそろ時間がやばいので大急ぎで出発した。

 

 

放課後

というわけでキキョウは梔子市に来ていた。
展開がメラ早いが気にしちゃいけない。

「えーと、確かこっちの道で合ってたよなあ・・・?」

以前来た時の記憶を頼りに、慣れない道を進む。

「えーと、ここを右に曲がって・・・あれ?」

気付いたらさっきと同じ場所にいた。
・・・・・・迷った。

「まずいなあ。やっぱ地図とか持っときゃ良かったよ・・・」

焦りながら頭を掻く。
数ヶ月前の記憶などあてにならないらしい。
・・・・・・というか方向音痴なのだが。この辺は母からの遺伝だ。

「しかたない、誰かに道を聞こう」

そう考え、適当に歩いてみる。
しばらく歩くと、公園らしき場所に出た。
その墨に固まっている数人の男を発見する。

「よし、あの人達に聞いてみよう♪」

どう考えても怪しいのだが、その辺はあまり気にせずに駆け寄る。

「すいませーん、ちょっと道を・・・」
「あぁん?」

話し掛けると突然男達が振り向いた。
思わず固まる。
その顔がピアスやらなんやらをつけたメラ悪人顔という事もあったのだが、それだけではない。
キキョウはその顔に見覚えがあった。
そう、それは数ヶ月前の事・・・・・・・・・。

「あ゛」

そう、数ヶ月前に彼が絡まれた不良だった。
はっきりいってマズイ。
逃げ出したいがそうもいかない。
数秒の間に周りを囲まれてしまう。

「てめぇ、この前はよくもふざけた真似してくれたな」
「今度こそてめぇからお金借りちゃうよー、返す気はないけどねー」
「転送ォ!」

一人の男の号令と共に一斉にメダロットが転送され、キキョウを取り囲む。
メダロットのラインナップは前回と同じだ。

「え・・・げ・・・あー・・・転送」

冷や汗をたらしながら、メダロッチの転送ボタンを押す。
するとほんの数秒の間にボルトが転送される。

「えー、そうなんすよおかーさん・・・ってあれ?」

驚いた表情で周囲を見渡す。
どうやらレンカと会話をしていたらしい。

「・・・・・・ロボトルか?にしてはなんかヤバそうだな・・・」
「マジでやばい。悪いけど、強行突破するから力貸してくれ。後でオイルデラックス奢るから・・・」

強行突破、ということはつまり「戦って勝って逃げる」ということらしい。

「これから特訓する予定だったんだけど・・・まぁいいか」
「さんきゅ。・・・コード転送」

一気に会話をすませると、慣れてきた手つきでメダロッチを操作しEJECTコードを転送する。
肩の装甲が弾け、そして瞬時に剣の形へと変形、そしてそれを掴む。

「よぉっし!!行くぞ!!」

構え、叫ぶ。

「てめぇもメダロット持ってたのか・・・。なら、パーツも全部頂いてやる!!」

不良のリーダーらしき男が叫び、メダロット達が動き出しはじめたその時!

「合意と見て宜しいわね!?」

どこからか声が聞こえた。
周囲を見渡す全員。
しかし、どこにも声の主は見つからない。

「お・・・おい、あれなんだ!?」

不良の一人が叫び、空を指差す。
空には5つの黒い点があった。
なんだかこちらに向かって近づいてきているような気がする。

「や・・・やばい!逃げろ!!」

数人がその場から走り去ろうとするその時!!

どっかあああああああああんっ!!!

という音がして、何かが墜落した。
衝撃。辺り一体が煙に包まれる。

「な・・・なんだ一体?」

恐る恐る落下地点へ近づいてみる。
煙が晴れると、そこには丸いポットのような物があった。
窓らしき物があったが、曇っていて中は確認できない。
すると、突然ポッドに縦にひび割れが走る。
そして、両側に崩れた。
中にいたのは・・・人だ。宇宙服らしい物を着込んでいる。
謎の人物がヘルメットに手をやり、外す。
中にいたのは黒い長髪の人物・・・・・・Ms.ハープだった。

「Ms.ハープ、只今帰還いたしました!地球は青かったです!!わたくし感動いたしました!!」

敬礼して、上官に報告するように叫ぶ。
その光景に、誰もが唖然としていた。
誰も言葉を発しないのを見て、ハープが呟く。

「・・・あら、もしかしてハズしたかしら?これ、結構お金掛かったんだけどなあ・・・」

なにやらブツブツいいながら宇宙服を脱ぐ。
その下にはレフェリーの服装。

「それじゃあ始めましょ。はい、ロボトルファイトッ!」

どこかへ飛んでいっていた精神が、ロボトルの言葉で帰ってきた。
慌ててメダロッチ越しに指示を出す。
まずは、ベルゼルガとストレイウォルフが突っ込んできた。
パワータイプとスピードタイプの2体だ。
リーダー機であるブラウンバイソンは後方で待機している。

「よし、ボルト!相手は・・・」
「待ってくれ、キキョウ!」

指示を出そうとするキキョウを、声で制す。

「・・・・・・ギリギリまでは、オレ一人で戦ってみたい。・・・頼む」

特訓の成果を試してみたい。
彼はそう考えていた。

「大丈夫なのか?」
「強くなるために、乗り越える。絶対に」
「・・・・・・OK」

きょとんとしていたキキョウは、微笑み、小さく呟く。
そして、メダロッチを付けている左手を下ろす。

「あぁ、なんのつもりだ?」
「オレ一人で充分ってこった!!」

いぶかしむ不良の言葉に、駆けながら叫ぶ。

「舐めるなよぉーーー!!」

怒りながら、ストレイウォルフが爪を繰り出す。
しかしボルトは、自分でも意外なほどの反応速度でそれを受ける。
そして、左の剣を叩き込む。
ガードはされたが、それでもかなりのダメージを与える事が出来た。

(なんだ・・・?)

感覚に違和感を覚えながらも、その場から飛び退く。
すると、さっきまで居た場所にミサイルの雨が降り注いだ。
後方で待機していた、ブラウンバイソンの攻撃だ。
辺りが黒煙に包まれる。
何も見えない。
故に目を閉じ、サーチアイを起動させる。
カメラアイに、周囲のマップとアイコンが表示される。
緑の表示はメダロッター。白の表示は自分。そして、自分に向かって突っ込んでくる赤い表示・・・敵だ。
目を見開き、両の刃を前方でクロスさせる。
黒煙を突き抜け、ベルゼルガが現れる。
自分に対して、右腕・・・ヘルマイトを叩きつける。

「くっ・・・!!」

感じる、衝撃。
硬質の刃が、攻撃を完全に受け止める。
驚愕するベルゼルガ。

「っらぁ!!」

両手に力を込め、攻撃を押し返す。
その瞬間、ベルゼルガに隙が生まれる。

「うぉおおおお!」

腹部に刃を突き立てる。
機能が停止し、メダルが排出される。
ほぼ無傷の状態で、相手を一体倒した。
ここで気付く。
自分は強くなっている。
セインに何時間も、何日も特訓を付けてもらっているのだ。
こいつらに負けるはずが無い。
そう、メアスも、マイティも、そしてセインも、こいつ等の何倍も強いのだから。

「・・・・・・よぉっし!!」

自信が生まれる。

「いくぜ雑魚野郎!!5分で片付けてやるからかかってきやがれ!!」

叫び、相手に刃を向け、挑発する。
当然、相手はその言葉に怒り、そして激昂する。

「ウォルフ!バイソン!あのボケナスをぶっ殺せェエエエ!!」

叫びと共に、ブラウンバイソンが全ての火器を斉射する。
ミサイル、弾丸、そしてレーザー。
その全てがボルトに向かって直進する。

「当たるかァアアアア!!」

着弾直前に右ステップ。
攻撃は全て地面に落ちる。

「うぉあああああああああ!!」

刃を構え、突進。
途中で立ち塞がったストレイウォルフを斬り捨て、ブラウンバイソンへ向かう。

「ぬぅ・・・おぁあああああ!!」

ブラウンバイソンが四足歩行のバイソンの姿に変形する。
そして、そのまま突っ込んでいく。

「龍・撃・斬!!」

ボルトとブラウンバイソンが交差する。
ゆっくりと、ブラウンバイソンが倒れる。
その体には、×時の傷が刻まれていた。

「リーダー機、機能停止!ムスカリ選手の勝利!!」

Ms.ハープが勝利宣言をする。

「はい、それでは敗者は勝者にパーツの贈与を・・・あら?」

いつの間にか不良は遠くへ逃げ去っていた。
勿論メダロットを抱えて。

「ふぅ・・・・・・・、しかたないわね。・・・・・・・テラカド!!」

ハープが手を天に掲げる。
すると、数秒後に空から何かが落ちてきて・・・・・・不良の首に突き刺さった。
白目を向き、ゆっくりと倒れる。

「はい、ちょっと待っててね」

ハープが微笑み、走っていく。
キキョウがボルトに駆け寄る。

「ボルト、やったじゃん!」
「おう、当然だ!!はっはっはっはっはっは」

腕を組んで笑う。
こうして、ボルトは自分が強くなってきている事を知った。
少しずつ自信を持ちながら・・・。

本日の入手パーツ:BAF右腕パーツ フーフ

 

「ただいまー」
「おかえりなさい、キキョウ。・・・あら?あれ、買ってきたの?」
「・・・・・・・・・あ」

すっかり忘れてたそうな。


「暑いねー」
夏。それは暑い時。

「う・・・わぁ・・・」
感動する、心。

「やっぱ、どうせ出るんなら優勝目指さなきゃ」
燃える、闘志。

運命は交じり合い、そして・・・

 

メダロットZERO第7話
「夏だ!海だ!ロボトルだ!」