某所。

巨大な部屋の中に幾つかのリングが存在する。
その中で、多くの者たちが熱戦を繰り広げていた。
・・・・しかし、それは通常の大会とは一線を隔していた。
何故なら・・・・。
リングの上に立つ者も!
客席で声援を送っている者も!!
全員!!全身タイツに金魚蜂なのだ!!
それ即ち、これはロボロボ団の大会なのである。

と、会場内に声援が響き渡った。
どうやら、各リングで決着が着いたらしい。
ロボロボ団の一人・・・といっても、何故か彼だけタキシード。金魚蜂で。
・・・・変。
まぁ、その事は置いといて、そのロボロボ団員がマイクを持ってリングに立った。

「それではッ!第21回!!ロボロボ団新幹部決定戦のぉ!!結果発表ロボォ!!」

・・・・どうやらほぼ毎年やっていたらしい。
そんなことはどうでもいい。
タキロボがマイクを握りしめ、叫んだ。

「それではぁ!!新幹部発表ロボォ!!
まずは梅ブロック!!
このブロックはつわもの揃いだったものの、それを見事に勝ち抜いた、ロボロボ界の新スター!!
強豪のフォルテ!!」

梅リングの上に立つ一人の若い男にスポットライトが当てられる。
その男の顔は引き締まり、まさに漢といった感じだ。
その隣には、パートナーと思われる一体のメダロット・・・GKD型「ゴクード」が立っている。

「次に竹ブロック!!
パワータイプが多かったこのブロック!!勝ち抜いたのは巨漢の大男!!
嵐のテンペストーゾ!!」

今度は竹リングにスポットライトが当てられた。
そこに立っていたのはタキロボ団の言うとおり、巨漢の大男。
その背丈は常人の1.5倍はあるだろう。
その隣にはパートナーと思しきFRN型「グラッチェ」が立っていた。

「お次に松ブロック!!
スピードタイプが多かったこのブロックでは、この優男が勝ち残ったぁ!!
突発のプレスト!!」

再びスポットライトが輝く。
光の中に立っていたのは、サラサラヘアーで美形の優男だった。
その隣にはTJK型「ジャッカル」が浮遊している。

「そして最後に桜ブロック!!
女性ばかりのこのブロック!!それを制したのは超美人!!
華麗なるエレジー!!」

スポットライトが桜リングに当てられる。
なぜか、ここだけ色付き(桃色)
そこに立っていたのは、ナイスバデイのスーパー美女。
腰に手を当て、何かのモデルのようにライトに照らされている。
隣ではKBT型「ブラックビートル」が観客に手を振っている。

観客から声援が巻き起こる。

「以上をもって、ロボロボ団御祭町支部新幹部決定戦を終了するロボ!!
新幹部の方々、気合を入れて頑張ってくれロボ!!」

・・・・こうして、ロボロボ団御祭町支部新幹部決定戦は幕を閉じた。

 

 

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pisode4「出現!!永遠の好敵手!!」

 

 

キキョウの部屋。

今日は休日。
しかしながら、出された宿題は山のよう。
これじゃ遊びに行く事も出来ず、普通の中学生は山のようなプリントやらに囲まれ、
凹んでいることであろう。
しかし、キキョウは違っていた。
宿題に手をつけず、とてもワクワクしながら。
それが気になったボルトが、キキョウに尋ねる。

「どうしたいキキョウ。なんか嬉しそうだけど?」

キキョウが、ニヤリと笑う。

「ふふふ・・・。今日は予約してたメダロット社見学ツアーがあるんだ!!」

何故かガッツポーズを取る。
目が、燃えている。

「ところで、いつ行くんだ?」

少し引きながらも、時間を聞いてみる。

「えーと、11時だったかな?」

時計に目をやる。時計は、1時を指していた。

「メダロット社行きの10時30分のバスに乗ればいいんだから、後20分くらいで出れば間に合うと思う」
「え?30分て事は、もう出なきゃいけないんじゃないか?」

ボルトの言葉に、首をかしげる。
ボルトはカメラに時計を表示する。
その時計は、11時23分となっていた。
キキョウの声に、今朝の母の言葉が甦る。

「キキョウ、時計の時間狂ってるみたいよ。私、機械はわからないから、自分で直しておきなさい」

・・・・・・忘れてた。
しかしそんなことを考えている暇は無い。
鞄を掴み、ダッシュで家を出る。
それを追いかけるボルト。
途中、エリカが歩いていた。
キキョウに気付いたエリカは少し頬を赤らめ、声をかける。
しかしキキョウは気付いていない。必死だ。

「あ・・・、ムスカリく・・・ん?」

そのまま疾風のごとく走り抜ける。
唖然とするエリカ。
後から来たボルトが挨拶をしたが、彼女はしばらく固まったままだった。
はい、出番終了。

・・・・なんとかツアーバスには間に合った。
家から1キロ程の距離を全力疾走したキキョウは、
息切れ切れのまま、バスに乗り込む。

「はぁ・・・はぁ、間に合った・・・・」

椅子に身体をうずめる。
バスガイドが何かを言っているが、キキョウの耳には届いていない。

・・・・・あれ?何か忘れてるような・・・・・。

思考をめぐらせるが、思い出せない。
絶対忘れちゃならないことだと思うが・・・・。

『オイコラ!キキョウ!!オレを置いてくな!!』

声。
メダロッチからの通信。
・・・・ボルトだ。
どうやらバスに乗り損ねたらしい。
気付け自分。

「うわ!ご・・・ごめんボルト!!」

慌ててメダロッチに手をやる。
しかし、隣の席の人に注意された。
バスの中じゃ邪魔だから、メダロットは転送するな、と。

「す・・・、すいません!!
 ・・・・・・っつーわけでごめんボルト、メダロット社につくまでそこにいて」
『何ィ!?てめーキキョウ、覚えてやが』

うるさいので、通信を切る。
溜息をつき、再び椅子に体をうずめる。

「・・・・・・ふぅ・・・・・・」

・・・疲れた。
このまま眠ってしまいたい。
しかしそんなわけにはいかない。
遅いくる睡魔と闘う。
遠くに小さく、メダロット社のビルが見えてきた。

 

――それから数十分。

「おーー」

ツアーの列に並びながら天を仰ぎ、感嘆の声を漏らす。
その視線には当然メダロット社のビルが映っていた。
メダルを模した、巨大なマーキングを見つめる。
ここで沢山のメダロットが造られていると思うと、胸がわくわくした。

『おーいキキョウー!早く転送してくれ〜〜!』

メダロッチから、ボルトの声が響く。
まだ少しぎこちない手つきでメダロッチをいじり、転送する。

「っふーー、やっと来れた。暇で暇でどうしようかと思ったぜ」

首をこきこき鳴らす。

「今度ああいうことしたら承知しねえからな」

苦笑。
メガホンで拡大されたガイドの声が耳に入る。

「それでは、メダロット社見学ツアーを始めます。列から漏れずに私について来て下さい」

列が、動き出す。
キキョウとボルトもそれについていく。

それから、いろいろなところを廻った。
メダロットが出荷するまでの過程や、試作機のテストロボトルなど。
キキョウは、好奇心旺盛な子供のようにそれを見ていた。

ツアーが半分終わり、昼食になる。
メダロット社の社員食堂でカレーを食べる。
そういえば、前にカレーを食べたのいつだっけ?
そんなことを考えながらカレーを完食する。
コップに残った水を一気に飲み干す。
ここで、気付いた。
ボルトが居ない。
さっきまで隣でオイルを飲んでいたはずなのに、どこに行ったんだろう?

「ボルトー?」

メダロッチに話し掛ける。
しかし、返事がない。
どうやら回線を閉じているようだ。
渋々、探しに出る。

 

食堂を出て暫くすると、廊下を右に曲がる大きな羽根が見えた。
間違いない、ボルトだ。
走って追いかける。
角を曲がると、そこにボルトが立っていた。
その前方にはロープが張られ、「関係者以外立ち入り禁止」と書かれたプレートが吊るしてあった。

「おいボルト、何やってんだよ」

やっと追いついたキキョウが、荒い呼吸のまま尋ねる。

「探検してたんだ♪おもしろそうだろ?」
「探検って・・・・ここ、立ち入り禁止って書いてあるよ、まずいって」

しかしボルトは聞く耳持たず、ロープをくぐっていこうとする。
それを引きとめようとすると、背後に人の気配を感じた。

「あなた達、そこで何をしているの?」

まずい。
そっと振り返る。
そこには、若い女性が立っていた。
その女性の髪は長く、赤い。恐らく染めているのだろう。
体のラインがよく出る黒革の服に身を包み、その上に白衣を羽織っている。
白衣に取り付けている名札には、「紅野」と書かれていた。

「ここから先は関係者以外立ち入り禁止よ、何をしているの?」
「え・・・え〜と、見学ツアーで来たんですけど・・・」
「探検してたんだ♪」

ぎこちなく答えるキキョウの気持ちなど知らず、ボルトは楽しそうに答える。

「そう。・・・・・・あなた達、ちょっとこっちに来なさい」

しかられるのか?うー、やだなー。

そんなことを考えていたが、女性が向かったのは、
「関係者以外立ち入り禁止」のプレートの向こう側だった。
少し驚きながら、ついていく。
廊下を歩いていくと、ドアが見えてきた。
恐らく研究室か何かだろう。
女性が、ドアを開けて入っていく。
少し戸惑いながら、キキョウも部屋に足を踏み入れる。続くボルト。
その中は、研究室だった。
一人の研究員が女性に気付く。

「紅野さん、遅いじゃないですかー。あれ?誰ですかその子。ここは関係者以外・・・」
「ごめんなさい、弟がどうしてもって言うから。責任は私が取るわ」

その言葉に、驚く。
弟というのは勿論嘘だ。
自分たちを庇ってくれているのか?

「もー、しょうがないですね。今回だけですよー」

その研究員は、渋々自分の仕事に戻る。
紅野は、まだ驚いたままのキキョウに向けてウィンクをした。

 

「そういえば、まだ名前言ってなかったわね。私は明日香。紅野明日香よ。あなたは?」

自販機から取り出したコーヒーを渡しながら、尋ねる。

「えーと、ムスカリキキョウです。こいつがボルト」

コーヒーを受け取る。
紙コップ越しにも、コーヒーの熱さが伝わってくる。

「そう、いい名前ね。キキョウ君、メダロットは好き?」

微笑む紅野。
あまりにも美しくて、少しドキッとする。

「えー、あ、はい」
「そう。それじゃ、いいものを見せてあげるわ」

椅子から立ち上がり、研究室の中心にあるガラスに向かう。
近づいて見ると、その中ではメダロットのテストが行われているのがわかる。
しかも、今まで見たこともないような機体ばかりだ。

「あの機体が、KBE型キラーホーネット。頭部が策敵で、両腕はビーム。
 TON型とかCJB型とか、そういうのに近い能力の機体よ」

紅野が指差した方向の機体を見る。
たしかに蜂だ。
TONやCJBに近いって事は、ジャンプ力が高いということだろうか?
部屋の中には、他にもカミキリのようなメダロットや、コブラのようなメダロットが並んでいた。
目を走らせていくと、途中で最も目を引くものがあった。

「紅野さん、あれは?」
「ん?」

キキョウの指差した先のメダロットを見る。
そのメダロットはピエロのような形をしていて、武器らしい物が見つからない。

「ああ、あれはMRN型ネットドールよ。
ワールドドールシリーズって知ってる?あれの14番目の機体。
頭部はトラップで、ダミーの両手からは糸を出して、相手を絡め取る。
・・・実はね、あれは私が設計した物なの」

「ええ!?あれ、紅野さんが考えたんですか!?」
「ええ、私の考えた企画が始めて通ってね、自分でもホントびっくりしてる。
でも、私が設計したのはあれだけなんだけどね」

苦笑しながら語る彼女の表情は、充実感に満ちている顔だった。

「凄いなー」

尊敬に満ちた眼差しで、ネットドールを見つめる。

「・・・・・・あれが、最初で最後の機体になるんだろうな」
「・・・え?」

驚いて、振り向く。
彼女の表情はさっきとは裏腹に、暗く沈んだ物だった。
キキョウの視線に気付いた彼女は、慌てていつもの顔に戻る。

「あ、なんでもないの。独り言」

笑ってはいるが、表情にはまだ影が差していた。
怪訝に思いながらも、視線をネットドールに戻す。
そのとき、突然部屋を・・・いや、メダロット社を衝撃が襲った。

「何!?地震!?」

ふらつく足場を駆けて、紅野が他の研究員に尋ねる。

「これは爆発です!!第6倉庫で事故が発生しました!!」

モニターに表示された情報を読み取りながら、研究員が叫ぶ。

「第6倉庫?あそこは確か・・・まさか!?」
「紅野さん!?」

突然部屋を飛び出した紅野をキキョウとボルトが追いかける。
紅野の表情は、とても切羽詰ったモノだった。

 

――メダロット社内 第6倉庫

黒煙に包まれた倉庫内から、二人の何者かが大きなダンボール箱を運び出している。
煙から出たその姿は、金魚蜂のようなものを頭に被り、タイツに身を包んでいる。
誰が見ても、間違いなくそれはロボロボ団だった。

「うひょひょひょひょ〜、メダロット社の警備なんてちょろいロボ〜、楽勝ロボね〜」
「フォルテ様の手にかかればイチコロロボよ〜」

二人の団員が、ダンボールを床に降ろしながらばか笑いをしている。
と、倉庫から一人の男が出てくる。
その姿は、煙から出たのに真っ黒だった。

「馬鹿者、そんな事をしている暇があるなら早くそれを運び出せ」

浮かれている部下とは違い、落ち着き払った表情で指示を出す。
団員がダンボール箱を持ち上げる。
と、廊下の角から足音が近づいてきている事に気付く。

「・・・・・・早いな。今までのザコとは違うか」

黒尽くめの男が、呟く。
次の瞬間、少し離れた廊下の角を曲がって一人の女性が現れた。
赤い長髪の女性。
紅野だ。
全速力で走ってきたらしく、息が荒い。

「やっぱり・・・それを持ち出すつもりね。あなた達、それが何だかわかっているの!?」

黒尽くめが、嘲笑とも微笑とも取れる笑みを浮かべる。
それが、答えになった。
角から、キキョウとボルトが現れる。

「紅野さん!!」

紅野に向かい叫ぶ。
驚き、振り返る紅野。

「あなた達!?ここは危険よ、早く離れなさい!!」

ロボロボ団に気付き、飛び出そうとする二人を手で制する。

「・・・それを、返してもらうわよ」

ロボロボ団を睨みつける。

「・・・ふん、返せといわれて返す馬鹿は居るまい。返して欲しければ、実力で奪い取るんだな」

黒尽くめの言葉に、ゆっくりと左手を口の前に持っていく。
そこには、赤い女性用メダロッチが付けられていた。

「・・・・・・転送」

ゆっくりと、呟く。
メダロッチから光が伸び、彼女の眼前に光球が現れる。
光は徐々に薄れていき、人型を形作っていく。
天にそびえる、2本の角。
かぎ爪のような、刃。
腕から飛び出した、ハンマー。
そして、黒いボディ。
女性型KWG型メダロット、ブラックスタッグ。
ロボロボ団も、同じ手順でメダロットを転送する。
三つの光球から現れるメダロット達。
2体のアントリアン。
そして、赤いフォルムのメダロット、GKD型・ゴクード。
後方で、何かを入力する音、そして何かが外れる音がした。
振り向く、紅野。
見ると、ボルトがEJECTを完了していた。

「あなた達・・・」

「オレ達も手伝います!!」

キキョウの言葉に、微笑む紅野。

「わかったわ。さぁ、行くわよ!」
「よっしゃあ!!」

ボルトの言葉と同時に、駆け出す2体。
2体のアントリアン動き出す。

「おおおおおおおおおおおっらぁあ!!」

雄叫びを上げながら突進し、剣を振り下ろすボルト。
アントリアンは右の爪でガードを試みるが、勢いを殺しきれず、そのまま右手を潰された。
敵の右腕を斬り落としながらも、勢いが付きすぎたため、そのまま倒れこんでしまう。
そこに、もう一体のアントリアンが爪を振り下ろす。

「ボルト!」
「ちぃ!!」

転がり、避ける。
追撃が来る。
それを右の剣で受け止める。

「おお!!」

左の剣を、突き出す。
胸部を貫かれ、崩れるアントリアン。
安堵の表情。
しかし、残ったアントリアンが迫る。

「まずい、早く起きなきゃ!」
「わかってるよ、くそ!」

必死にあがく。
しかし、なかなかアントリアンの下から抜け出せない。

「ちっくしょぉ!!」

アントリアンが、爪を振り上げる。
ダメージを覚悟し、目を閉じる。
しかし、攻撃は来ない。
ザクリ、という音がした。そして、何かが倒れる。
ゆっくりと、目を開ける。
アントリアンが倒れている。
ブラックスタッグが、立っていた。
その刃はオイルに濡れている。

「油断大敵・・・よ。早く起きなさい」

左手を差し出す。
それを掴み、起き上がる。
方向転換し、今まで戦いを傍観していたゴクードを見る。
黒尽くめが、微笑を浮かべていた。

「・・・ふみ、今の動き・・・女、只者ではないな」

「あら、そうかしら?私の世界には、このくらいごまんと居たわよ」

その言葉に違和感を感じるキキョウ。
私の世界、とはどういう意味だろう?
しかし、その考えは途中で中断させられた。
ボルトが、ゴクードに向かって駆け出していた。

「オレを無視すんなぁーーーーー!!」
「待ちなさい!」
「うるせえ!!」

ブラックスタッグの制止の声を振り切る。
絶叫しながら、突進する。

「ふん、愚かな」

ゴクードが、構える。
手を前方に突き出し、交差させる。

「おぉおおおおおおおおお!!」

横薙ぎに、剣を振るう。
しかし、ゴクードはそれを屈んで避ける。

「はッ!!」

かけ声と共に、胸部に強烈な掌打を喰らわせる。
強い衝撃に吹き飛び、壁に叩き付けられる。

「か・・・は・・・」

痛みに、うめく。
機能停止まではいかなかったが、彼はそれに近いダメージを受けていた。

「ボルト!」

キキョウが駆け寄る。
手を差し伸ばすが、ボルトはそれを払い、ふらつく足で立ち上がる。

「まだ・・・だ・・・!まだ・・・負けてねぇ!!」

ダメージを受けた個所を抑えながら、吠える。
しかし、ブラックスタッグが彼を制止した。

「ダメよ・・・。今のあなたでは、勝てない」

呟き、構えた。
その構えには、寸分の隙も無い。
それだけで、ゴクードには彼女が相当の修羅場をくぐり抜けてきた事がわかった。

「女。お主・・・名は?」
「・・・メアス」

ゆっくりと、答える。

「メアスか・・・。我はマイティ。・・・・参る」

二人の間の空気が張り詰める。
マイティが、駆ける。
拳を繰り出す。
刃でそれを受け止め、左腕・・・ブラックビートで応酬を加える。
マイティはそれを冷静に捌き、下段回し蹴りを放つ。
跳躍し、それをかわす。
相手の背後に回りこみ、刃で攻撃する。

「ぬぅ!」

素早く方向転換。
刃を掴み、そのまま投げ飛ばす。
メアスは空中で体制を立て直し、難なく着地する。

「凄い・・・・・・」

ボルトが、呟く。
今までの戦いを、目で追うのがやっとだった。
2人の戦いが、自分の及ばない別次元での戦いに見えた。
今まで、何度か戦い、それに勝利した事で浮かれていた。
恐らく、偶然だったのだ。それか、相手が弱すぎた。
セインには到底敵わない。もしかしたら、イズミにも勝てないかもしれない。
自分の無力さを噛み締める。
キキョウも、同じ気持ちだった。

 

何度も激しくぶつかり合いながらも、未だに決着は着いていない。
互いの損傷は軽微。
このままじゃ、戦いは終わらないかもしれない。

「明日香、これじゃ・・・」
「わかってるわ。力は使いたくなかったけど・・・・・・」

メダロッチを通じ、お互いにしか聞こえない会話をする。
二人が、目を閉じる。

「・・・・・・?何のつもりだ?」

マイティがその行動をいぶかしみながらも、構える。
力を溜めるようにしゃがみ込み、次の瞬間に力強く踏み出す。
そのまま駆け、そして跳躍する。
空中で1回転し、右足を突き出す。
それは、蹴りだった。
強力な、飛び蹴り。
絶対にかわされない自信があった。
しかし・・・・・・。

「何!?」

キックの直撃の瞬間に、メアスが、消えた。
着地し、周囲を伺う。
次の瞬間、首筋に冷たいものを感じた。
・・・・・・メアスの刃が、突きつけられていた。
どうやって避けた?
マイティが、何年ぶりかの危機的状況に困惑する。
が、すぐに冷静になり、この状況を脱する方法を考える。
しかし、どうしてもこの状況では首を落とされる。
・・・・潔く、体の力を抜く。
メアスが、刃を動かす。
配線を切られ、機能停止する。
メダルが、外れる。
メアスはそれを拾い、フォルテに向かって投げた。

「・・・ふ、オレの負け・・・か」

それを受け取り、俯き呟く。

「奪った物を返そう。・・・撤収するぞ」

マイティの体を転送すると、踵を返し、部下を引き連れ去っていく。
その姿が視界から消えると、メアスはゆっくりと倒れた。
紅野が急いでその体を支える。

「大丈夫?」
「ええ・・・ひさしぶりに力を使ったから、少し疲れただけ・・・」

紅野の言葉に、力なく答える。

「少し・・・休むね」

呟き、目を閉じる。
メダルが射出され、体が力を失う。
紅野が、キキョウを振り返る。

「ありがとう、手伝ってもらって」

微笑み、礼を言う。
キキョウが慌てる。

「そんな、オレ達なんてなんの役にも立たなくて・・・」

確かに、それは事実だ。
自分達は、弱すぎた。足手まといだった。
だが・・・。

「でも、あなたは一緒に戦ってくれた。一人で戦うよりは、ずっと心強いわ。
それに、あなたはきっと強くなる。今よりも、ずっと・・・」

紅野は、はっきりとそう言った。
その目は、全てを知っているような、何もかも見透かしているような、そんな目だった。

「あ、そうだわ。これをあげる」

紅野は白衣のポケットから何かを取り出し、それをキキョウに渡した。

「なんですか、これ?」

渡された物を見つめる。
それは、石だった。
綺麗な石。
岩からそのまま削りだされたような無骨な形だが、美しい光を放っていた。

「そのうちわかるわ」

微笑み、答える。
答えにはなっていなかったが、今はそれで納得する事にした。

「さぁ、行きなさい。今あなたがここに居ると、とてもまずいことになる」

突然厳しい顔になる。
キキョウは何かを察すると、軽く頭を下げ、ボルトの手を引いて駆けて行った。
少ししてから、幾つかの足音が近づいてきた。
何人かの研究員が現れ、紅野を見つけると駆け寄ってきた。

「紅野さん!」
「遅かったわね。侵入者はもう逃げたわ」

研究員たちに答えた彼女の言葉は、さっきとは違い鋭い物だった。

「倉庫からアレを持ち出そうとしていたみたい」

目でダンボールを差す。
一人の研究員が駆け寄り、中身を確認する。

「中身は無事です!」
「でしょうね」

研究員の報告に、呟く。
あの男は、奪った物を返すといった。
嘘をつくような人間ではない。
少なくとも、彼女はそう思った。

「それにしても、これが奪われなくて良かったわ」

ダンボールへと歩み寄る。
その中には、透明のケースに保管された2枚のメダルがあった。
中心には赤い宝玉が輝き、そして、表面にはそれぞれトンボとタガメの絵が描かれていた―――。

 

 

 

あるマンションの一室。

すでに時計は11時を廻り、外は夕日が沈み美しい月が出ている。
シャワールームの扉が開く。
中から、バスタオルに身を包んだ女性・・・紅野明日香が出てきた。
シャワーを浴びた後らしく、その赤い髪は濡れ、月の光を浴びて艶やかに光っていた。
窓に歩み寄り、夜の町並みを眺めながら、長い髪を整える。
そこで、気付く。
室内で、淡い光が輝いている。
それは、照明の光ではなかった。
紅野はさして驚いた様子もなく、その光に近づくと、まるでその光に意思があるかのように語りかけた。

「・・・お久しぶりね、クロノス」

彼女の言葉に、その光は輝きを強めた。

「・・・・・・そう、始まるのね。私も還るの?」

今度は、光は答えなかった。
それは、彼女にとって驚くべきことを意味していた。
しかし、彼女は動じなかった。

「・・・そう。大丈夫、覚悟はしていた事だから。
ええ、わかったわ。準備をする」

目を閉じて呟き、バスタオルに手をかける。
それが落ちると、彼女の美しい肉体が晒された。
しかし、彼女の右腕には、大きな傷があった。
肘から右胸にかけてまで、刃物で傷つけられたような、傷が。
それをさして気にすることなく、着替えを始める。
いつもの服装・・・黒革の服に着替えると、室内の棚に目をやる。
そこには、写真があった。
この世界で出会った、最愛の人と取った写真。
自分が、はにかみながら笑っている。
辛そうに、それから目を背ける。

「・・・クロノス、もういいわ」

手を広げ、呟く。
光が今までよりも強く輝きを発する。
室内を光が満たし、紅野の体が輝きに包まれる。
時空転移が始まる。
今まで幾度となく体験してきたそれは、今はとても辛い物に思えた。
最後にもう一度だけ写真に目をやる。
あの人には、もう2度と会えない。
だから、彼女は呟いた。

「さようなら、私の大好きな人」

涙が彼女の頬を伝い、落ちた。
次の瞬間、光がより一層強く輝き、そして、消えた。
同時に、紅野も。
部屋は、彼女がここへ住む前の状態に戻っていた。
ベッドも、写真も、全て消えていた。
ただ、誰かが流した涙の後だけが、そこに残っていた・・・・・・。


「どうしたらいいんだろ・・・」
彼は、迷っていた。

「キキョウ君は、キキョウ君のままでいいと思う」
頬を赤らめ、呟く。

「なんとなく、わかった気がする」
決意を固める。

ただ、前に歩くために―――

 

メダロットZERO第5話
「敗北を知って」