御祭町内の河川敷。
鉄橋の下で蹲る人影。
近くで怒号と足音が聞こえる。
やがて遠ざかっていく足音に、その者は安堵の溜息を吐き、そして・・・倒れた。

 

 

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pisode10「逃亡者」

 

 

「しかしこれ・・・不思議だなあ」

キキョウ。
彼は、自室で石を眺めていた。
窓から差し込む太陽の光を反射し、美しく輝いている。
しかし・・・・・・、あの時の煌きに比べれば、色褪せて見える。

「それに、不思議といえば・・・」

もう片方の手に持っていたもの。ボルトのトンボメダル。
メダルが成長することは知っていたが、成長のスピードが妙に早い気がした。
何度もロボトルを行い経験を積んでいたとはいえ、一ヶ月かそこらで成長するなど聞いたこともない。
そもそもメダルはなぜ成長するのだろう、なぜ絵柄が変わるのだろう、晩御飯のメニューなんだろ・・・う?
とてつもなく関係ない雑念が入った。
そこでキキョウは自分のあんまり良くない頭がショートしかけていることに気付く。

「う〜〜・・・」

髪の毛を掻き毟り、立ち上がる。

「メダロット、転送!」

メダロッチを操作し、ボルトのボディを転送する。
背中のメダルスロットにメダルを入れると、少ししてからカメラアイに光が灯る。
目覚めたボルトが頭を振り、意識をはっきりとさせる。

「・・・?」
「散歩行こ、ボルト」
「ん?あー・・・、おう」

何かを感じ、首をかしげるが、キキョウの言葉に答えて、部屋の扉を開け外に出て行った彼に続く。
心に響くような妙な感覚を気にしながら。 

 

「出てきたは良いけど・・・なんだかなぁ・・・」

河川敷の土手の上を歩く二人。
二人とも、別々に考え事をしていた。
キキョウはメダルの事から打って変わって昨日のお昼御飯のことを。
そして、ボルトは妙な感覚について。

(なんなんだ、これ・・・・・・?)

額を押さえ、目を瞑る。
前を見ずに歩く・・・と、なんだか片足を踏み出した先に感触がない。

「へ?」

間抜けな言葉を発した次の瞬間、彼は土手から転がり落ちていた。

「どわぁああああ!?」

絶叫しながら斜面を転がっていく。目が回る。
どしん、と地面に倒れる。頭を摩りながら立ち上がる。

「だ・・・大丈夫かボルト!」
「おーう」

慌てて斜面を駆け下りてきたキキョウの言葉に、軽く手を上げて答える。

「うー、いてて・・・んぁ?」

目を開けると、何かが目に入った。
鉄橋の下に倒れている、人影。
否・・・。

「・・・・・・メダロット?」

呟き、駆け寄る。
それは紛れもなくメダロットであった。
機体色は茶色。
背中に二つ、昆虫の足のような物体がある。
機能停止しているのか、瞳には光がない。

「あー、これ、TAG型メダロット・・・タガンダーだな。ボルトのつけてるパーツ、トートンボーの兄弟機だよ」
「兄弟機?」
「ああ、トートンボーと、設計した人が同じなんだよ。確かその人の名前はレンギョウマンサク博士・・・あれ?」

自分の知識を話すキキョウだが、そこまで言ってあることに気付く。
レンギョウ・・・?

(そういえば海で会ったハナキさん・・・。苗字が同じレンギョウだったような・・・。
 確か、姉さんがメダロットの研究者の息子さんだとか言ってたような・・・ええ!?)

一人で考えたり驚いたり。全く持って大変な奴である。

「・・・・・・何やってんだ?」

ボルトの言葉で、我に返る。しかも頭が本日3度目のショートをしそうになっていた。
危ない、危ない。

「えーと、こいつ、メダルは入ってんのかな?」

キキョウがTAGに手を伸ばし、背中のメダルカバーを開ける。
メダルは・・・入っていた。
極々平凡なタガメメダル。

「あれ?ってことは・・・、なんか他に原因があるのかな?」
「とりあえず家に連れて行ってみるか?」
「おう、そうしよーか」

ボルトの言葉に答え、TAGを抱え上げる。
そして歩き出す。

 

う・・・・・・

掠れるような声で呻く。ゆっくりと、カメラに翠の光が灯る。

「あ、気が付いた?」
「はい・・・。あなたは・・・?・・・・・・それに、ここは・・・?」

キキョウの言葉に答えるTAG。先程とは違う、はっきりとした、澄んだ声だ。
周囲を見渡して、ここが河川敷ではないことに気付き、言葉を付け加えた。

「ああ、オレはムスカリキキョウ。で、こっちがボルト。君を見つけたのこいつな。
 で、ここはオレの家。君、川原で倒れてたからさ。心配だったから連れて来たんだ」

TAGの言葉に答える。

「・・・そうですか、貴方が。ありがとうございます。あのまま倒れていたら、どうなっていたか分かりませんから・・・」

そこまで言ってから、床に手をつき、ゆっくりと立ち上がる。
そして、部屋の入り口に向かって歩いていく。

「お・・・おい、どこ行くんだよ」

キキョウが慌てて引き止める。
振り向き、答えるTAG。

「貴方達に、迷惑をかける訳には行きませんから・・・・・・」

微笑のような、苦笑のような表情を浮かべる。
それを見て、ボルトが何かを感づいた。

「お前・・・何があった?」
「・・・・・・お会いしたばかりの方を巻き込むわけにはいきません」

TAGが、再び微笑とも、苦笑ともつかぬ表情をする。
彼は、わかっていた。話せば、この二人は自分の問題に関わってくる、と。
しかし・・・。

「どうも、困ってる奴は見過ごせねぇんだ」
「何か力になりたい。話してくれないか?」

やはり、と思い、溜息を吐く。
諦め、語りだす。自分の事を。

 

「僕は2ヶ月程前、アメリカから日本に輸送されてきました。
 沢山の仲間と、この機体と一緒に」

その言葉で、キキョウは思い出す。
確か、タガンダーは木蓮研究所と、メダロットUSAが協力して開発したメダロットだったはずだ、と。
TAGが続ける。

「しかし貨物船は隊漁町の港に着いたときに、ロボロボ団に襲われたのです。
 誰かが戦っていたらしく、ロボロボ団は撃退されたのですが、僕だけは無理矢理起動させられました。
 何とか逃げ出したものの、追っ手が来て・・・。
 僕は精一杯逃げました。
 そして、この街にやって来て、なんとか追っ手を撒いて、安心したときに倒れてしまったようで・・・」
「なるほどな、そうだったのか・・・」

TAGの話が終わり、キキョウとボルトの表情が暗くなる。
意味が無いと分かっていても、彼に同情してしまう。

「・・・お前、これからどうするんだよ」
「先程も言ったとおり、あなた方を巻き込むわけには行きません。
 僕は、これからも逃げ続けるつもりです」

微笑む。どこか、悲しそうな笑み。
また、出て行こうとする。しかし。

「ウチに居ないか?」

キキョウの声。驚き、振り返る。
キキョウは微笑を浮かべていた。

「しかし・・・」
「大丈夫だよ、うちの母さん、ボルトを買ってきた時も気にしなかったし、それにパーツの修理くらいしたほうが良いと思うし」
「・・・・・・はぁ」

再び笑う。
もう、何を言っても無駄だ、と思い、再び溜息を吐くTAG。
でも・・・、嬉しかった。
優しい人に会えてよかった、と思う。
だから、少しだけ、彼の世話になろう。

「そういえば・・・名前は?」
「あ・・・はい。ダスト・・・そう呼ばれていました」

 

 

それから数日が経ち・・・。
ダストは洗濯物を干していた。

「ほんと、よく働いてくれる子ねぇ♪」

レンカは大喜びだった。
と、言うのも、ダストが洗濯だけでなく、他の家の手伝いもしてくれるから。
掃除洗濯アイロン掛け、全部彼がやってくれている。
どうやらこういう才能があったらしい。
・・・というか、基本的に人工メダルには一般的な知識などがインプットされていて、
こういった人間の家事の手伝いができるようにもなっているのだが。
ボルトは一部の情報が欠落していたらしい。・・・もしかして不良品?いや、そんなことはどうでも良く。

「おーす、調子どうだー?」

背後から声。振り向くと、ボルトとキキョウが家から出て来ていた。
微笑み、答える。

「・・・・・・あれ?どこかへ行くんですか、キキョウさん」

ダストの言葉どおり、キキョウは普段着ているようなTシャツではなく、その上に上着を着ていた。
よく見れば髪をちゃんと梳かしているので、外出するんだということが一目で分かった。
ちなみに、今は彼の右手に茶色と白のメダロッチが巻かれている。
左手のボルトのメダロッチと併せて、二つ。
一応、ダストのメダロッターということになっているのだ。

「ん、あー、ちょっとある人の買い物に付き合うことになっててね」
「・・・・・・デートですか?」
「な!?ち・・・違うってば!行って来まーっす!」

ダストの言葉に、顔を真っ赤にして逃げるように走っていくキキョウ。
相手は・・・言わずもがな。
その後姿を見て、わかりやすいなあ、と微笑む。

「ダストちゃん、ちょっと良いかしら?」
「あ、はい、なんでしょう?」

遠ざかるキキョウから目を離し、レンカの言葉に振り向く。

「お遣い頼んで良いかしら?」
「ええ、良いですよ」

微笑んで答える。
レンカからお金とメモの入った籠を受け取り、庭から出て行く。
その姿を遠くから見やる者がいるとも知らずに・・・。

「見つけたロボ、こんなところに居たロボね・・・」

その者は目を細め、ダストを見つめ、にやりと口の端を釣りあがらせた。
一方ボルト。

「あれ?あいつが買い物に行ったら誰がコレ干すんだ?」

籠に入った洗濯物を見ながら。
この後洗濯物干しをボルトがやらされたのは言うまでも無い。

 

「え〜と・・・・・・、みりんにポン酢にリンゴに人参に玉葱、ジャガイモと豚肉にカレールーにソバメシチャーハンの素・・・・・・・・・?」

何を作るのか果てしなく謎な食材が書かれたメモを見ながら、商店街をてくてく歩いている。
色々と釈然としないところはあるが、深くは考えないことにした。

「そうですね・・・それじゃあ、まずは八百屋から・・・・・・・・・?」

そこまで言ったダストの目に、異様な物が入ってきた。
妙な集団がこっちに向かって走ってきている。
全身タイツに金魚蜂の人間と、メダロットの集団だ。

「・・・・・・!!」

それは彼にとって忌むべき者達だった。
脳裏に蘇る、恐怖。
逃げても、逃げても、逃げても、逃げても、逃げても、逃げても。
どこまでも追ってくる。

「う・・・わぁあああ!!」

悲鳴を上げ、踵を返して駆け出す。
それに気付き、集団もダストを追い走り出す。

 

にこやかに微笑み談笑しながら、商店街の一角を並んで歩くキキョウとエリカ。
傍から見れば・・・っつーかどう見てもデートにしか見えない。
最近こんなものばっか書いてしまう俺がどんどん嫌いになってくる。
・・・・・・いかん、話が逸れた。

「・・・あれ?」

キキョウが何かに気付き、呟く。
視線の先。腕から買い物籠をぶら下げながら、我武者羅に走る茶色いメダロット。
それは、紛れもなくダストだった。

「知り合い?」
「うん、色々あって今ウチに住んでる奴なんだけど・・・何やってんだろ?おーい、ダストォ!!」

エリカの言葉に答え、手を振ってダストを呼ぶ。
・・・が。

「うわぁっ!?」

ダストはそれに気付かず、キキョウの横を走りぬけそのまま走り去ってしまう。
くるくる回って倒れるキキョウ。お約束だ。

「だ・・・大丈夫?」
「う・・・うん。痛ー・・・なんなんだ・・・?」

頭を抑え、立ち上がる。
しかし、その後方から走ってくる集団に気付き、顔色を変える。

「な・・・、ロボロボ団ッ!?」

そう、ロボロボ団。見間違えるはずも無い。
というか全身タイツで頭に金魚鉢被ってる集団が他に居るはずも無い。

「くそ、こうしちゃ居られない!」

咄嗟にロボロボ団の前に飛び出す。
しかし彼等はそれに気付かず・・・。

「え?ちょ?・・・まさ・・・ぎゃぁああああああ!!?

そのまま走り抜けていってしまう。
大勢の人間にぶつかられ回転回転大!回!転!

「・・・・・・きゅう」

ぐったりと倒れるキキョウ。駆け寄るエリカ。
集団はそのまま遠ざかっていった。

 

 

「はぁ・・・、はぁ・・・、ここまで・・・来れば・・・もう・・・」

路地裏に入り、壁に手を付き呟く。
だが・・・。

「見ぃーつぅーけぇーたぁーロボォー!」
「・・・!」

上空から、声。
咄嗟に飛び退く。
ダストが今居たところに、液体が降って来た。
それは地面に当たると、嫌な音を立ててアスファルトを溶かす。
つまり・・・酸。
周囲に不快な臭いが広がる。

「く・・・・・・!」

振り向かず、再び走り出す。
地面に降り立ったロボロボ団員と、蜘蛛型メダロット・・・タランテールもそれを追う。
ダストは必死に走っている。ロボロボ団との距離もそれなりにある。
しかし。
タランテールの脚部は車両タイプだ。
舗装された地面ではこれに並ぶ速度を持つ脚部のタイプは無い。
対するタガンダーは二脚タイプ。
その距離は徐々に詰められていっている。

「くそ・・・!このぉッ!!」

意を決して振り返り、両腕を構える。
そこから夥しい数のミサイルが撃ち出される。
撃ち出されたミサイルはタランテールの集団の前方に着弾する。
そして、爆発。

「これで・・・」

腕を下ろす。
だが、すぐに構え直すことになる。
爆煙から、数体のタランテールが飛び出してきたのだ。
何体かは機能停止していたが、それでも数は多い。
再びミサイル発射。今度こそ・・・そう思ったが、ミサイルは酸で撃墜されてしまう。
しかたなく、再び背を向け走り出す。
それを追うロボ団。
追いかけっこ・・・といえば楽しそうに聞こえるが、実際に追われている側にとっては全く楽しくない。
いつしか、ダストは商店街を離れ、町内の溜池まで来ていた。
すでに周囲はタランテールに囲まれ、池の縁まで追い込まれていた。
まさに、絶体絶命。
ロボロボ団の部隊長と思われる男が一歩前に歩み出てくる。
そして、口を開いた。

「どうするロボ?再び我々の元に戻って来れば、生かしてやるロボよ」
「だれが・・・貴方達になど!」
「ふん・・・残念ロボねぇ!跡形もなく溶けるが良いロボ!」

タランテールのリーダー機が両腕をダストに向ける。

(これで・・・終わりですか)

それに従い、他のタランテール達も。

(最後にキキョウさん達に会えたのが唯一の救いですね・・・)

ロボロボ団員達が号令を発する。
ダストが覚悟を決める。
そしてタランテール全機の腕から酸が発射された時・・・。

「・・・・・・・・・!」

彼の聴覚センサーに聞こえてくる声。
微笑み、そして彼は池に跳び下りた。
酸は全てダストがさっきまで居たところに落ちる。

「なんだロボ?自棄になったロボか?あのまま落ちてしまえば浮き上がれないロボねぇ」

隊長格の、嘲る様な言葉。
しかし、ダストが池に沈むことは無かった。
水面に触れる直前、彼の体はぴたりと静止した。
そして、水面を滑るように移動していく。

「ロボォ!?どうなってるロボ!?なんで水面に浮かんでられるロボ!?」

混乱するロボロボ団達。
その疑問に対する答えは後方から返って来た。

「マニアック・ビートル・シリーズにはそれぞれ特殊な機能が備わってるんだよ。
 その二号機のTAG−01の特殊機能は脚部のホバークラフト。だから水面に浮かんで滑るように移動できるんだよ」
「ロボ!?」

驚いて振り返る。そこに居たのは・・・。

「キキョウさん、指示ありがとうございます」
「はは・・・。ベストタイミング・・・だったかな?」
「はいっ!」

メダロッチを構えたキキョウ。エリカ、そしてイズミ。苦笑するキキョウの言葉にダストが微笑む。
マニアック・ビートル・シリーズとは、12ヶ所の研究所がそれぞれ開発した12体のメダロットの事だ。
4月に発売された一号機・CJB型クラドリィーを初めとし、月に一体ずつ発売されるMBSには各々に特殊機能が搭載されている。
CJB−01の特殊機能は、脚部の局時反発装置。特技はそれを用いた跳躍。
そして、二号機であるTAG−01には、ホバークラフトの機能が付いている。
足の裏から圧縮空気を噴出し、その反発で僅かに宙に浮き、そして腰部のブースターを噴出して姿勢制御・移動を行っているのだ。

「さぁってあんた達!あたしがぶっ飛ばしてやろうかしらぁ?」

イズミが右手に持った爆弾を投げたり取ったりして遊びながら不敵な笑みを浮かべる。
一歩引くロボロボ団員達。

「イズミ、その必要はなさそうだよ」
「ふぇ?」

エリカの言葉に妙な声を出し、首を傾げる。
しかしすぐに意味を理解する。
池の中心に居るダストが、構えている。
腕部・肩部の装甲が開き、夥しい数のミサイル発射口が現れる。
タガメの前足の部分に当たる黒い物体が前方を向く。
そして、胸部のハッチが開きそこから二門のガトリング砲が現れる。
1体のタランテールがそれに気付く。だがもう遅い。
ミサイル、そしてガトリングは、タランテール全機をロックしていた。

「全武装、安全装置解除!ミサイル・・・ガトリング・・・フルバァァアアアッストォ!!

ダストの叫びと共に、撃ち出される全てのミサイル・弾丸。
それ等は回避行動を取ろうとするタランテール達を追尾し、そして・・・直撃!
タランテール達を飲み込む大爆発が巻き起こる!

「冷却装置、作動・・・」

呟きと共に、彼の体のあちらこちらから蒸気が噴出す。
熱を持った各部を、急速に冷やしているのだ。
そして、爆煙が収まると、そこからは全機機能停止した、焼け焦げたタランテールが出てきた。
唖然とするロボロボ団員達。

「これ以上、僕を追ってくるつもりなら・・・もう、容赦はしません!」

静かな口調。しかし、そこには強い意思があった。
威圧感、とでも言おうか。
ロボロボ団員達はそれに圧倒されてしまう。

「ひ・・・!も・・・申し訳ありませんでしたロボーーーーー!!」

裏返った涙声で、一目散に逃げ出していく。
それが見えなくなるまで睨み、そして溜息を吐く。
そして、満足げな笑みを浮かべ、空を仰いだ――――

 

 

その日の、夕方。

「やっぱり、行くのか?」

ボルトの言葉。それはダストに向けられた物だ。

「はい、もう、何かに脅える必要はありませんから。だから、世界を見て回りたいんです。
 この世界の色々な物を、自分自身の目で見て。
 そして色々な事を知りたいんです」
「・・・そっか。母さんは残念がるだろうな・・・」

キキョウの言葉に苦笑し、頭を下げる。

「・・・・・・今まで、お世話になりました。縁があったら・・・またお会いしましょう」

そして頭を上げ、踵を返す。

「ダスト!」

キキョウの声。振り返ると、何かを放って寄越して来た。
それを受け止める。
それは、メダロッチだった。
キキョウが右腕に付けていた物。茶色と白のツートンカラーのメダロッチだった。

「これは・・・?」
「それを持って行けよ。お前がいつか、自分に相応しいメダロッターに会った時・・・それをそいつに渡せ」
「・・・・・・はい」

微笑み、再び踵を返し、今度こそ歩いていく。
それを見送り、キキョウも踵を返し、帰路に着く。
・・・夕日が、沈んでいく。


「・・・さて、帰ろうか」
「おう!」
「今日の晩御飯何かなー」
「カツカレーソバメシチャーハンだってよ」
「え、マジで!?よぉっし!ダッシュで帰るぞ!!」
「あ!おい、待てよキキョウ!」
「ほら何やってんだ置いてくぞ!」
「だから待てって!・・・・・・なぁ、キキョウ」
「ん?どした?」
「あいつ・・・良いヤツに会えるかな?」
「・・・会えるさ。オレ達が会ったように・・・な」
「・・・・・・ああ、そうだな。きっと・・・」

オレ達が出会ったように。あいつも―――――――――

 

 

どこかの、研究施設。
様々な機械に囲まれた初老の男がモニタに向かい、様々な文字列を見つめている。
コンピュータの隣。メダルトランスポーターに収まっている一枚のメダルを見つめ、不適な笑みを浮かべた。
――――世界が、夜の闇に包まれていく。


「・・・・・・私を、信じてください」
独りになった、騎士の言葉。

「オレ・・・どうすりゃ良いんだよ」
彼は、悩み始める。

「・・・・・・アレ、覚えてるか?」
そして彼等は成長する。

人は悩み成長する物だから―――

メダロットZERO第11話
「誇りを掛けた闘い」