ZEROからはじまる物語。
これは、そのもう一つの、そしてその後のお話です。
悲しみを背負って生まれた男。そして、それを止める男。
その、物語・・・。


メダロットZERO Another&Aphthe
第1話 血塗られた男


からんからん
鈴の音が鳴り、こじんまりとした喫茶店「夕暮刻」のドアが開く。

「いらっしゃいませー」

女性の声。
この喫茶店のウェイトレス、ムスカリ リンドウだ。
入ってきたのは3人の高校生。
茶髪の少年に少女、黒髪、特徴という特徴が無い少年。

「あら、ハナキ君にアネモちゃん、それにカイドウ君じゃない。注文はいつもので良いのね?」
「はい、お願いします」

リンドウの言葉に、茶髪の少年・・・レンギョウ ハナキが答える。

「おっけ、それじゃ、座って待っててね。ユウジー、ハナキ君達、いつものだって」
「りょうかーい!」

厨房から威勢の良い声が聞こえる。
答えたのはハゼ ユウジ。まだ21だがこの喫茶店の料理長、そして店長でもある。
彼とリンドウは職場の上司部下という関係であると同時に、恋人同士でもある。
それはさておき、ハナキと、その幼馴染のマラユイ アネモ、友人のアマリ カイドウはテーブルのうちの一つに座る。

「ねぇ、ハナキ。新型メダロットの起動実験、今日だったよね?」
「あぁ、ブラストも立ち会うことになってる。なんでも新型に使われるメダルが、あいつと一緒に見つかった奴らしいんだ。
それで、何かあいつの体に影響出るかもしれないからデータ取るって」
「ふーん」

ブラスト、とはハナキのパートナーメダロットのことだ。
数年前に父親に貰って以来、今までずっと一緒に過ごしてきた。

「俺達も、部屋の外からなら見ても良いってさ。一緒に行くか?」
「うん、見たい見たい!」
「俺も見せてもらうぜ」
「よし、じゃあ、4時までに行こうか」
「話が弾むわね。はい、いつものお待ちどう様」

いつの間にかやってきたリンドウが、テーブルに飲み物を置く。
ジンジャエールにレモンティー、それにコーラ。
これが彼等の「いつもの」だ。

「それじゃ、ゆっくりしてってね」
「はい、ゆっくりさせて貰います」

アネモが答える。

「アネモちゃんはほんとしっかりしてるわよねぇ。キキョ・・・ウチの弟にも見習わせたいくらいだわ」

リンドウの言葉に、アネモが微笑む。

「おーい、リンドウ」
「ん?なぁに、ユウジ」

呼ばれて、ユウジの方に向かう。
ユウジも厨房から出てきた。

「あの・・・さ、おまえ、今度の日曜空いてる?」

そーゆーことか。
一瞬で用件を見抜き、微笑する。
デートのお誘いだった。

「ごめんね。私、その日からしばらく実家に戻ることになってるのよ。たまーに帰っとかないと不味いしね」
「あー・・・、そうか」
「何か用事?」

聞いてみる。分かってるのに。悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「あ、いや、なんでもない。あははは・・・」

困った顔をしながら厨房に戻る。リンドウは噴き出しそうになるのを必死で堪える。

「リンドウさん・・・、あれはちょっと可哀想なんじゃ・・・」
「そうかしら?」

悪びれた様子なし。
レモンティーを飲みながら、この人は・・・と思ってみる。

「おいアネモ、早くしろよ」

ハナキの声。いつの間にか、彼とカイドウは飲み物を飲み干していた。
急かされ、少しムッとする。

「ゆっくり飲ませてもらっても良いじゃない。子供みたいなこと言わないでよね?」
「何ぃ!?」

口論。
いつもの光景。いつものこと。

でも、今日からそれは変わり始める・・・・・・・・・。



七夕市内、木蓮研究所。
その一室では、人々が慌しく動き回っている。
部屋の中央には、様々な機材に繋がれた二体のメダロットの姿があった。
共に、カウボーイを模したデザイン。
脚部は馬の形をしている。
片方は起動しているが、もう片方はただ項垂れているだけ。
起動しているほうが、GNM−01メダボーイ。名は、ブラスト。
ハナキの親友だ。
隣の部屋では、強化ガラス越しにハナキ、アネモ、カイドウ、
そしてアネモとカイドウのメダロット、ANG型のエイシアとTIG型のグレースがその光景を見ていた。

「おーい、ブラストぉー、気分はどうだぁー?」

メダロッチで呼びかける。
友人から返ってきた答えは・・・。

「気持ち悪ぃー」
「ははっ」

苦笑。
そりゃそうだ、体中のあちこちに色々なコードを繋がれているのだから。

「ははは、我慢してくれよ」

この実験の責任者であり、ハナキの父親でもあるレンギョウ マンサクが笑いかけて来た。
それに会釈して答える。
一人の研究員が駆け寄ってきた。

「主任、そろそろ・・・」
「ああ、そうだね。始めようか」

答え、コンピューターのディスプレイを見る。
様々な文字や記号が表示される画面を見つめる。
研究員の一人が事務的な口調で報告を行う。

「頭部伝達系異常なし、右腕、左腕、脚部伝達系異常なし、各部駆動系異常なし・・・・・・」
「よし、GNM−02起動!」
「了解。GNM−02起動します」

マンサクの指示に従い、研究員がキーボードを操作する。
メダロット・・・GNM−02の各部から蒸気が噴出す。

「おはよう。気分はどうかな?」

マンサクがGNM−02に近づき、語りかける。
しかし、返事が無い。動かない。ただ項垂れているだけ。
困った顔になり、髪の毛を掻きむしる。

「ふーむ、失敗したかな?しかたない、もう一度最初からやりなお・・・?」

その時、気づく。駆動音が聞こえる。
振り向く。GNM−02が動いている。
こちらに、銃口を向けている・・・・・・。

「・・・・・・!?」

ドンッ
銃声が響く。
マンサクが倒れた。
その場にいる全員が驚愕する。

「お前・・・何しやがる!?」

ブラストがGNM−02に向かい、銃弾を放つ。
しかし寸でのところでかわされる。

「父さん!」

ハナキ達が隣の部屋から飛び込んできた。
マンサクに駆け寄る。

「ハナキ、親父さん連れて逃げろ!エイシア、グレース!こいつを止めるのを手伝ってくれ!!」
「ああ!アネモ、カイドウ、行くぞ!ブラスト、エイシア、グレース、後を頼む!」
「うん、わかった!」
「行くよ・・・!」

ハナキとカイドウがマンサクを担ぎ、アネモがその補佐をする。
エイシアとグレースがGNM−02の前に躍り出る。

「アンタいきなり何するんだい!?」
「・・・ふ」

グレースの言葉に答えず、嘲笑し、ブラストに左手を向ける。
そこには、何かの発射口のようなものがある。
光の粒子が集まり始める。

「・・・・・・!」

咄嗟に屈む。
頭の上を光が掠めた。
その光の先には・・・。

「しまった!ハナキ!!逃げろ!!」

光がハナキ達に向かって伸びる。
ブラスト達が走るが、間に合いそうに無い。

「ハナキ!博士ェ!!」

絶叫。
このまま行けば直撃は免れない。
ハナキがマンサク達をかばうように立つ。
目を閉じる・・・。

「カイドウーーー!」

グレースが、跳んだ。
ハナキと光の間に丁度入り、そして・・・。
光が、直撃した。

「グレースッ!」
「カイドウ・・・皆・・・逃げ・・・て・・・」

光が徐々に消えていく。
グレースが崩れる。その瞳は輝きを失い、体は焼け爛れている。

「てめぇええええ!!」

ブラストが怒り、叫ぶ。
GNM−02が振り返り、ブラストを見る。

「ふ・・・使命を忘れ、安穏と生きている者が・・・」
「使命・・・だと?」

銃口を向けながら、怒気を籠めて、静かに呟く。
遠くから大勢の人間の足音が聞こえる。

「そうだ、俺はそれに従う・・・・・・。教えてやる、俺の名は・・・・・・」
「動くな!」

言葉が遮られる。
振り向くと、大勢の人間とメダロットが居た。
・・・セレクト隊だ。

「危険なメダロットめ・・・処分する!」
「ふん」

失笑し、左手を向ける。
光が放たれる。

「な・・・」

光が、セレクト隊の足元を融かし、抉る。
大量の煙が発生し、目くらましになる。

「ケナシザルの阿呆どもが・・・。いいか、覚えておけよ。俺の名はブラッド。ブラッドだ」

そして、ブラストを見る。

「じゃあなぁ、兄弟」

にやり、と邪悪な笑みを浮かべ、壁を撃つ。
厚いコンクリートの壁に大穴が空き、外への通路となる。
・・・メダロットの武装とは、思えない威力だった。
煙が晴れて来る。

「ふ・・・あばよ!」
「しまった!追えー!」

隊長と思われる人物が部下に命令を下す。
しかしブラッドの銃弾に阻まれ、結局見失ってしまった。
ブラストが振り向く。
ハナキとアネモはただ呆然と立ち尽くし、カイドウはグレースに縋り涙を流している。
その光景を見て、ブラストは手を握り締め、怒りと、悲しみが混ざった表情で呟く。

「ブラッド・・・てめぇはこの俺が絶対に・・・!」

そして、日常が変わりだす・・・・・・。


To be continued....